Q&A
2002年9月3日米国の「98条協定」について(後編)
(Q4)「98条協定」を結ぶことによって生じる影響には何が考えられるのか?
この協定を結ぶ国家は、ローマ規程、条約法に関するウィーン条約、そして国内の犯人引渡し法に定める履行責任に反することになります。ローマ規程の締約国は、ICCに対する協力と支援を義務付ける規程の以下の条文に違反していることになります。
第27条:職務資格との非関連性
第86条:協力の一般的義務
第87条:協力の要請―一般規定
第89条:裁判所への個人の引渡し
第90条:要請の競合さらに、規程の締約国は、条約の目標および目的を妨げることになる行為を禁ずる「条約法に関するウィーン条約」の第18条にも違反することになります。最後に、多くの国々が、自国の犯人引渡し法に違反する可能性があります。それは、通常、国内法では、米国の「98条協定」に許容される条件よりも広範囲で柔軟な送還及び引渡しの条件が定められているからです。
(Q5)これまでに「98条協定」の締結を迫られた国は何処か。またその結果は?
2002年9月3日現在、ルーマニア、イスラエル、東チモール、そしてタジキスタンが、このような協定に署名した唯一の国々として報じられています(訳注:但し、東チモール政府は協定締結の事実を公式に否定。ローマ規程の79番目の締約国ともなり、協定については依然検討中であるとの公式見解を発表)。これらの協定の多くは、今後各国議会において承認及び批准されなければなりません。情報によると、米国の同盟諸国及びNATO加盟を申請中の国々など、世界中の多くの国が協定の締結を迫られており、その圧力は凄まじいものであるとのことです。欧州連合(EU)諸国を含む世界各国で法律上の分析が為され、かかる協定が国際法に反しているという結論が出されました。
(Q6)この動きは他の米国の全体的な対ICC運動とどのように連動しているのか
ICCの刑事管轄権から米国市民を守るために、米国政府からの数多くの外交指令が実行に移されました。
2002年5月6日には、マーク・グロスマン米政務担当次官により、米国政府によるローマ規程の署名はもはや無効であり、規程を批准する意志もないと発表されました。また、米国は同月中にまず国連平和維持活動の不安定化を画策し、米将兵の免責権が確約されない限り、東チモールにおける国連平和維持活動の延長に関する安保理決議において拒否権を発動すると脅しました─ただし、東チモールにおける活動はこのような確約のないまま継続されることが決議されました。しかし現時点では、米国は東チモールに対し「98条協定」の締結の取り付けに成功しています(訳注:前述したようにこれは事実ではありません。東チモールは協定を締結していないと公式に否定しています)。
2002年7月12日、米国はボスニア・ヘルツェゴビナに関する安保理決議の場において、1年間の更新可能な訴追猶予を獲得しました。米国議会が夏季休会に入る直前の翌月2日には、ブッシュ大統領がASPA(米国軍人保護法)を署名し、法律が発効されました。これにより、ICCに賛同する非NATO諸国に対する軍事支援を撤回する権限(但し大統領の拒否権も網羅)が与えられました。
米国による「98条協定」の推進キャンペーンは、8月中旬に本格化しました。リチャード・プロスパー米戦争犯罪問題全権大使などの米政府高官は、より広範な二国間協定の締結を妨げるようなことがあれば、NATOと米国の関係は変わってしまうと述べました。さらに、米政府高官は公然と否定していますが、「98条協定」を締結しない国に対してはNATOへの加盟を拒否しているという事実も報じられました。EU各国は、2002年9月4日にコペンハーゲンで開かれる外相会議の場で、この件について協議することになっています。