国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

人間の安全保障の発展に貢献する日本と世界の道筋と行く末を見つめます。

【資料】(案)犬塚議員の参議院外交防衛員会質問書(下)

3. 本会議答弁のフォローアップ(外)(法)

「十分な重大性」の要件参議院本会議にて麻生外務大臣は、「集団殺害犯罪などを犯した個人の不処罰を許さないとの決意を明確にし、これらの犯罪を犯した個人を処罰する包囲網の一翼を担っていきたいと考えている」と答弁されています。また一方で、3月20日衆議院本会議の答弁では、「対象犯罪の一部について、我が国が処罰できない可能性は理論上はあり得る」としつつ「ICCが実際に管轄権を行使するのは十分な重大性を有する事案のみであるため、そうした可能性は実際には想定できない」と答弁されています。ローマ規程では、「十分な重大性」に関する明確な要件はありません。政府としては、この「十分な重大性」を満たす要件をどのように捉えているのか、また要件を満たす基準となる項目はどのように設定されるのか、ICCのこれまでの判例からこれを導くのかなど、その手法についてご説明願いたい。(外)(法)

アジア(とくにイスラム)諸国における働きかけ─本会議でご答弁いただきましたアジア諸国に対する我が国の働きかけについて質問します。アジアからは少し外れるのですが、中東アラブ・イスラム国家であるイエメンの議会がこのほど(4月7日)、先月24日に行ったローマ規程への批准承認を撤回し、また批准のための手続き法についてはこれを否決するという決定を下しました。イエメンは中東アラブ・イスラム諸国ではヨルダンに次ぐ2番目の締約国となる可能性のあった国で、アラブ連合に加盟するイスラム国としてはジブチコモロに次いで4番目となる予定でした。
国連加盟国192カ国のうちOICイスラム諸国会議機構に加盟する実に57カ国がイスラム国家であり、そのほとんどがICCに加盟していない状態で、機構の一員でもあるイエメンの議会が一度は承認した批准を撤回するという決定に及んだことは、非常に大きな波紋を呼んでおります。アジア地域24カ国のなかでも、現在締約国は5カ国ですが、残り19カ国のうち世界最大のイスラム国家であるインドネシアも含めた9カ国(47%)がイスラム諸国なわけであります。インドネシアは、来年2008年に加盟することを国是としておりますが、今回のイエメン議会の行動がもたらす余波は図り知りません。先日の答弁では「様々な機会を利用して直接働きかけを行う」と述べておられるのですが、とくにアジアの47%を占めるこのイスラム諸国に対してはどのように働きかけを行っていく積もりなのか、またどのようにそのための機会を創出するつもりなのかについてお聞かせ願いたい。(外)

人間の安全保障に対する取り組み─国連の「保護する責任」報告書の著者の一人でもあるラメシュ・タクール博士は、ICCは人間の安全保障の一翼を担うものであるという認識でおり、また保護する責任とは「加害者と被害者の間に入って被害者を事前に守る手段を講じることを想定した概念である」と述べられています。麻生外務大臣は先日の本会議で、「ICCを含め人間の安全保障に関する活動に引き続き積極的に取り組んでいく考えであります」と答弁されておりますが、政府が解釈する「人間の安全保障」「保護する責任」とは何なのか、また国連などにおける議論などでまさに前述のタクール博士のような見解が出てくるわけですが、このような見解に対し政府としてはどのように捉え、どのように概念から実施への転換を図っていくのか、その具体的な道筋について伺いたい。(外)

APIC特権免除協定を締結しない件─本会議で麻生外務大臣APIC ICC特権免除協定を締結しない理由について「ICCの裁判官、検察官などにはICCローマ規程により既に特権免除が付与されている」と答弁されていますが、そもそもAPICが策定されたのは、まさにこの特権免除を補完および保証するためであります。APICでは、ICCについての特権及び免除条件(第13~22条)、権限および免除権の付与に関連して生じる問題を想定した規定(第23~38条)がそれぞれ広範囲に渡って盛り込まれており、これはローマ規程においては想定されていません。また大臣は同じ質問で「長期にわたってICC職員などが活動することを現時点では想定していない」と答弁されていますが、APICは長期の活動のみならず協力案件ごとのケースバイケースの単発的ミッションにおける協力も想定しており、その際に特権および免除を付与されるのは、なにもICC職員に限られません。ICCが行う裁判に関わる被疑者および被害者、証人なども同様の扱いとなります(第22条)。このように、ローマ規程では十分に想定されていなかった事態や状況を想定してAPICは構成されています。先の質問でも述べましたように、ICCは独立した国際条約機構であるため、1946年採択の国連特許免除条約の適用対象外です。では、上記に述べたケースなどについて、我が国の法律のどの規定によってICCに関係するすべての人間の特権および免除が保証されるのか具体的にお答え願います。(外)

人間の安全保障基金の信託基金への転用ICC特有の被害者救済のための信託基金について、本会議では大臣は「同基金の活動状況などを見極めつつ、の関係について検討してまいりたいと考えております」と答弁されております。我が国が締約国として基金への協力を決めたときを想定して質問したいのですが、その場合の財源としてはどのような形をお考えでしょうか。たとえば、我が国が主導して2000年に創設した国連の人間の安全保障基金の転用などは考えられるのでしょうか。この基金は外務省資料(PDF冊子『人間の安全保障基金』)によると、拠出実績は現在325億円規模だそうですが、「国連事務局と日本政府との間で合意されたガイドラインに従って運用されている」とあります。さらに、基金によって支援されうる活動として「適当と判断される場合には国連システム内の機関が非国連機関との協力関係に基づき実施する事業」があると明記されています。国連は2004年にICCと独自に協力協定を結んでおり、相互に協力し合う体制が確立されておりますので、このような形で国連システム内の機関とICCとの協力関係に基づき基金に関連する事業が推進される可能性はあります。このような場合は、特定の財源を新たに確保せずとも、我が国の人間の安全保障基金への取り組みの中から信託基金への協力を推進していくことが可能かと思われますが、この件について大臣の見解をお聞かせください。(外)

裁判官選出に当たっての基準と民間との連携ICC加盟後の裁判官の選出について、法務大臣は先日の本会議では「ICC規程が定める裁判官の資格要件や選出手続きを踏まえ、外務省とともに適切に検討してきたい」と答弁されていましたが、ICC規程が定める裁判官の資格要件は、国際人道法・人権法等の国際法に関する経験に留まらず、国内の刑法および刑事訴訟法に関する経験を持つ者も含まれる比較的裾野の広い要件となっております。さらに、世界各国の主要な法体系の代表であることや、女性及び児童に対する暴力などを含む法的専門知識を持つ裁判官を考慮することも条件に含められています。以上のことを考慮すると、ご答弁されたように法務省と外務省のみで検討していくよりは、他国が行っているように民間、すなわち法曹界・弁護士団体・NGOなどからも広く候補者の選出等にあたって協議を行っていくのが適切ではないかと思われますが法務大臣はこの点についてどのようにお考えになりますか。(法)

規程の被害者・証人の保護・人権保障規定と国内法との落差ICC規程においては、捜査における被疑者の権利(第55条)、被告人の権利(第67条)、被害者及び証人の保護及び公判手続きへの参加(第68条)など、被害者・被疑者・被告・証人それぞれの立場の者のついて十全といえる保護規定が設けられている。これらの規定については国内法におけるそれらとは落差があると思われるのだが、当該者に対する国際的な人道・人権基準に基づいた扱いを保証する国内規定を整備していく必要があるのではないでしょうか。法務省の見解を伺いたい。(法)
以上