国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

人間の安全保障の発展に貢献する日本と世界の道筋と行く末を見つめます。

報告:ニューヨーク侵略犯罪に関する国際ワークショップ及び戦略会議

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侵略の犯罪化という国際刑事裁判制度の課題に取り組む

6月25日から26日の二日間、ニューヨークにて、リヒテンシュタイン公国国連代表部と侵略予防グローバル研究所の共催で、侵略犯罪に関する国際ワークショップと同戦略会議が連続で行われ、日本の市民社会を代表して、世界連邦運動協会が事務局を務める国際刑事裁判所問題日本ネットワークから勝見貴弘事務局長(当協会執行理事)が参加した。

会議の共催者であるリヒテンシュタインは、5月8日付けでICC国際刑事裁判所)規程における侵略犯罪に関する改正条項の最初の批准国となった国である。2002年の規程発効以降、同犯罪に関する特別作業部会の議長を務めてきた同国は、侵略犯罪条項の批准を推進するべく侵略予防グローバル研究所と合同で推進プロジェクトを立ち上げた。今回開催されたのはその第一回会合である。

侵略犯罪に関する改正条項は、2011年6月11日にウガンダで開かれたICCローマ規程の再検討会議でコンセンサス(合議)により採択され、4つめの管轄犯罪となった。しかし管轄権の行使が実行可能になるためには次の2つの条件を満たす必要があり、批准の推進は困難とみられている。
 
【管轄権行使実行の要件】
  1. 30の締約国が改正条項の批准または受諾を行った1年後
  2. 締約国の多数により2017年1月1日以降に行われる決定に従うこと
2010年以降、この要件の一部を満たし改正条項に批准したのはリヒテンシュタイン唯一国であるが、ワークショップでは、スイス、トリニダード・トバゴルクセンブルグ、アルゼンチンの4カ国の政府代表が年内に批准することを表明した。その他、オーストラリア、ドイツ、ベルギー等13カ国が批准を推進しており、更に日本を含む4カ国が検討の初期段階にあることを表明した。

日本政府は、2010年の再検討会議において、諸般の理由から「規程改正の採択のコンセンサスには参加しないが、それをブロックすることはしない」との「消極的賛同」の対応をとった。ただし、今回のワークショップで日本政府代表は「積極的に批准を推進しようとしているが国会の支持が必要である」と報告。勝見執行理事はここで発言し、「日本の批准を推進するためには国際社会の協力が必要である」ことを強調。またニュージーランドの国会議員で地球規模問題に取り組む国際議員連盟PGA)の国際委員でもあるケネディー・グラハム議員から議員立法による批准を推進している旨報告があったため、「日本においても議員立法の推進を検討する必要がある」と発言し、日本政府の発言を後押しした。

世界連邦運動協会は、2012年5月13日の第67回総会において、「国際刑事裁判所ローマ規程について、2010年再検討会議にて採択された侵略犯罪の定義及び管轄権の行使手続きに関する改正条項の早期批准」を日本政府に提言する国際委員会の運動方針の一つとして採択している。


文責:勝見貴弘

世界連邦運動協会ニュースレター
第612号(2012年7月28日号)寄稿文より転載)※強調追加

転載:原発再稼働と電力会社の経営 via 『河野太郎公式ブログ ごまめの歯ぎしり』(グラフ版)

原発再稼働と電力会社の経営

野田内閣は、なぜ、原発を次々と再稼働させようとしているのか。

決して電力が不足するからでも電気料金が高騰するからでもない。

再稼働させないと電力会社の経営が破綻に直面するからだ。

原子力発電施設解体引当金」という制度がある。平成元年に、運転を終了した原発廃炉にする、ということが決まった。(それまでは決まっていなかった!)

それにより、各電力会社は、原発廃炉に必要な金額を毎年、年度末に一括して引き当てをすることが決められた。ただし、毎年の引当金の金額は、それぞれの原子炉が運転を開始してから運転を終了するまでの間に発電するであろう総発電量に対して、それぞれの年に発電した電力量に応じて積み立てる。

想定総発電電力量=
出力x40年x365日x24時間x設備利用率
ただし、計算上設備利用率は76%とされる。(現実の稼働率はもっと低い)
総見積額=解体費用+処理処分費用(3兆円/10社:54基)


引当額=
総見積額x(累積発電電力量/想定総発電電力量)-前年度残高

つまり、稼働率が低い原発は、本来引き当てるべき引当金よりも、年度末に引き当てる金額のほうが少なくなる。だから、問題が大きい原発ほど、40年を超えて稼働させないと、引き当てが過小になり、廃炉にするときに損失を計上しなければならなくなる。

ほとんどの原発は、稼働率76%を下回っているので、40年で廃炉にすると、引き当てが足らなくなり、電力会社は損失を出すことになる。だから40年での廃炉を電力会社はむやみといやがる。

それぞれの原発廃炉にいくら掛かるかは、使用している金属やコンクリートの量などに処分単価を掛けて算出されている。

一番安いのが関電の美浜一号(34万kW)の318億円、一番高く見積もられているのか浜岡五号(138万kW)の844億円。

これが正しいかどうかは検証が必要だ。

各電力会社の23年度末の原子力発電設備残存簿価から廃炉のための引当金以外の引当金等を除いた金額をみると

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それぞれの電力会社の23年度末装荷核燃料簿価(原子炉内の核燃料の簿価)と完成核燃料簿価(原子炉以外に持っている核燃料の簿価)は

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各電力会社が引き当てるべき総額と23年度末までの引当金額、再稼働せずに廃炉にした場合の不足額は

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廃炉を決定した場合に各社が損失として計上するべき金額、つまり(引当金不足額+完成核燃料簿価+装荷核燃料簿価+原子力発電設備残存簿価から廃炉引当金以外の引当金を除いた金額の合計)、各社の23年度末純資産、その差額(マイナスは債務超過

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ちなみに23年度の十社の売上高合計15兆5,000億円、経常利益-1兆2,000億円、当期純利益-1兆6,000億円。

再稼働をせず廃炉を決定すれば、北海道、東北、東京の各電力会社と日本原電は債務超過になる。残り各社も純資産を大きく減らすことになり、23年度同様の赤字を出せば、債務超過になる可能性が大きい。

この他に、六ヶ所村で再処理工場を持っている日本原燃の経営問題もある。

エネルギー政策の転換には、電力業界の抜本的な立て直しが避けられない。


※本転載では、①計算式や表を見やすくして、②数字を半角にして③「,」を付け、④表内でのマイナス表示を通常の表での表示形式()に変え、⑤全ての統計をグラフで表している以外は、基本全てをそのまま転載しています。

世界連邦運動における「核の平和利用」推進方針が内包する問題

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世界大会が行われたカナダ・ウィニペグ大学の表札(前方)
会場のウィースリー・ホール(後方)

はじめに

2012年7月10日から11日の二日間、カナダのウィニペグで開催された第26回世界連邦運動世界大会(XXVI WFM Congress)では分科会(Commission)が開かれ、世界連邦運動協会からは四つの分科会についてそれぞれ代議員(Delegate)が参加した。

「平和、人間の安全保障、紛争解決」に関する分科会(COM2)には、犬塚直史(いぬづか・ただし)国際委員長と同委員会委員の私が入り、国際委員会が本年度の活動方針とする国際緊急人道支援部隊(HRTF)の設立に関する決議の成立を目指した。

「国連改革とグローバルガバナンス」に関する分科会(COM4)には、阿久根武志(あくね・たけし)当協会事務局長が参加した。COM2において私は報告者を務め、二日目の報告検討会において当該分科会で合意された二つの決議についての報告を行った。

これら当協会代議員が参加した分科会の他に「国際正義と国際法治と人権」に関する分科会(COM1)と「グローバルな経済・環境ガバナンス」に関する分科会(COM4)があったが、事前登録制のため、今大会においては当協会からは誰も参加することができなかった。しかし、COM4においては、福島原発事故を経験した日本社会にとって重要な議題が検討されていた。

それは、「原発に依存しない社会」を目指す決議を採択するというものであった。 

決議案提出の経緯

COM4の委員長を務めた米国のルーシー・ウェブスター(Lucy Law Webster)代議員は、委員長として福島原発事故に関するなんらかの決議を採択したいと考えていた。しかし、同会の報告者である英国のピーター・ラフ(Peter Luff)代議員は、福島原発事故に関して事前に提出された決議案はないとして、委員長の提案を拒否した。

分科会において事前に決議案が提出されていないからといって、会のテーマに沿った新決議を提案してはならないという規則はない。そこでウェブスター氏は、何とか福島に関する決議案を同会の決議案に挿入することはできないかと、私に相談を持ちかけた。私は事態を重く受け止め、自身がCOM2の報告者を務める傍ら、議場で決議案を書き上げた。

ウェブスター氏は短時間で書き上がった決議案を検討し、これを決議案に挿入するべく動き出した。私はここで注意を払い、分科会の全員に確認する時間はなくとも、せめて報告者であるラフ氏の了解を得るべきだとウェブスター氏に忠告した。

ウェブスター氏は会議の合間にラフ氏に確認をとり、「分科会決議ではなく個人提出決議としてほしい」と要請されこれを承諾した。

決議案の発表

まもなくCOM4の発表時間となった。

ラフ氏による分科会決議の報告の直後、ウェブスター氏は「関連決議」として個人提出決議を大会に提示。その主旨を読み上げ、決議は会場のスクリーンに映し出された。決議の内容は、次のようなものだった。(日英併記
 
国家の根幹的エネルギー・インフラとして、原子力発電所を建設予定、或いは既に長年に渡りこれを保有及び運用する各国政府に対し、原子炉のさらなる安全と運用の確保並びに将来的な脱原発社会の実現に向けて次のことを呼びかけることを世界連邦運動に求める。 
 
    1. 福島原発事故について、日本の国会独立事故調査委員会がまとめた最終報告、及び、米国原子力規制委員会の委託調査により福島原発事故調査特別チームによりまとめられた 『21世紀の原子炉の安全性実現に向けた提言』の内容を真摯に検討すること、及び
    2. 1と並行した、継続的に再生可能エネルギーの研究・開発・導入の推進を実践すること
抗議の辞任

同決議案について、大会は賛成12・反対16・棄権11の反対多数で否決する採決を下した。これを受け、議案起草者の私は翌日7月12日付けで抗議の辞任を決断。新任の理事会及び資格承認指名委員長に対し、国際理事辞任の意、並びに同日予定されていた執行理事選挙への指名辞退を伝える書簡を送付した。

突然の辞意の表明に対し、理事会では13日の会議で全会一致で私の慰留を求めることに合意。新任のアルゼンチンのフェルナンド・イグレシアス(Fernando Igelesias)理事長をはじめ各理事が慰留を求めるも、私は固辞。理事及び執行理事指名の受託の条件として、世界連邦事務局専務理事名で、世界連邦運動として、核の軍事利用及び平和利用に関する方針の歴史的経緯並びにこれに基づく公式見解の発表を要請。米国際事務局のビル・ペイス(Bill Pace)専務理事はこれを実現することを私に約束した。

私がこのような要請を行ったのには確固とした理由があった。

議案の採決時、議場からは反対意見のみが寄せられた。その内容は「当運動として、あるいは所属団体において、この決議の内容を公式方針として表明することはできない」という明確なものだった。後ほど各理事との意見交換で判明したのは、反対表明には主に次の理由があるということだった。

  1. 核の軍事利用(核兵器)への対論として核の平和利用があるのであり、運動は長きに渡ってこの立場を守ってきたため立場の転換は難しい。
  2. 運動はその政策方針として核拡散条約(NPT)体制を支持しており、体制下においては核保有を禁止するかわりに核の平和利用が認められるため、公に核の平和利用を否定できない。
  3. 核の平和利用を全面的に否定することは、地球温暖化対策の一環でのクリーン・エネルギーとしての原子力エネルギーの利用をも全面否定することになるため承伏できない。
  4. 規定の議案提出手続きを経ておらず、また十分な議論が行われていないため、公式な決議として拙速に認めることはできない。

棄権者との意見交換によると、殆どの代議員は(4)の理由で棄権していたことが判明している。一方、反対者との意見交換では、主に(1)及び(3)の理由が反対理由として挙げられた。即ち、反対票の殆どが「核の平和利用」という基本方針との矛盾を理由に投じられていたことが判明したのである。

世界の恒久平和を目指す世界連邦運動において、このような主義主張の膠着があるようでは世界連邦の実現はあり得ない、私はそう判断し、固辞することを決めた。

終わりに

 
福島原発事故以降、世界は大きく動いた。

原発安全先進国のスイスでは、事故以降に安全性の総点検がなされ、さらには、2030年までに全ての原発を停止する「脱原発」宣言がなされた。米国は事故発生後わずか四カ月で、前述の特別チームを編成し、事故の教訓を元に提言をまとめた。各国で原発依存の脱却を求める市民運動が活発化し、原発依存の低減の必要性を認める政策転換が相次いだ。

そうした中で、原発の安全性とクリーン・エネルギーとしての有用性を天秤にかけ、人間の安全保障を最優先とするパラダイム転換を要請する社会運動が活発となった。

このような中で、世界で最も先進的である世界連邦政府樹立を目指す世界連邦運動は、未だに旧来のパラダイムにしがみつき、原子力に関する先見性のある政策検討を行えないでいるのである。

また当協会が平成24年度総会で採択した宣言にあるように「持続可能な社会を継続できるよう、全世界の課題として脱原発に向けての論議」を進めるという見通しも立たない。私の辞任はこれを見越したものである。

2012年度世界連邦運動協会第67回総会宣言(抜粋)
東日本大震災では、津波による甚大な被害に加えて、深刻な原子力発電所事故が起きたことから、エネルギー資源のあり方が根本的に問われることになった。私たちは持続可能な社会を継続できるよう、全世界の課題として脱原発に向けての論議を進めなければならない。

世界連邦運動が真に世界に先駆けた先進的な運動となり、世界連邦樹立の牽引となるためには、あらゆる重要地球規模課題に関する政策分野においてこれを先導する必要がある。旧来のパラダイムに囚われて先見的な議論ができない現在のありようは、「核の平和利用」を推進するという基本方針が内包する根本的問題を表しているといえよう。


文責・世界連邦運動協会 勝見貴弘

個人声明:国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程発効10周年を記念して

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14年目の「国際司法の日」を迎えるに当たり、日本政府に苦言を呈す。

英語版 
今日から14年前1998年日7月17日、ローマで行われた国連全権外交使節会議において「国際刑事裁判所ローマ規程」が採択されました。その後、国際司法の発展に大いなる貢献をしたこの日は「国際司法の日」として記憶されるようになりました。そして、10年前7月1日、ローマ規程が発効し、国際刑事裁判所ICC)は今年で設立10周年を迎えました。

今日から5年前2007年7月17日、日本政府は国際刑事裁判所ローマ規程への批准書を国連に寄託。世界で105番目の締約国となりました。政府は国際的な名誉ある日として「国際司法の日」を批准書付託の日に選択。同日、憲法に云う「国際社会における名誉ある地位」を占めるに到りました

しかし、国際刑事裁判所ローマ規程に批准してから5年が経過した今日7月17日になっても、日本政府は規程の管轄犯罪を国内で犯罪化することや、ICCとの協力及び特権免除を規定する「国際刑事裁判所の特権及び免除に関する協定(APIC)」の批准といった作業を未だ進めていません。まさに、批准5周年の喫緊の課題といえます。

願わくば、批准5周年の今年こそ政府が形ばかりの国際的名誉にこだわらず、真に名誉ある国家として、正々堂々と自国内の犯罪を自国で裁けるよう、国際刑事裁判所ローマ規程の管轄犯罪である「戦争犯罪」、「人道に対する犯罪」、「集団殺害犯罪」、そして「侵略犯罪」を国内で犯罪化する名誉ある行動に到らんことを。

さらに、国際刑事裁判所に対する十分な協力を確保するため、現行の国内規則のみに甘んじることなく、ICCとの司法共助関係を定める「特権免除協定(APIC)」についても、これを速やかに批准し、必要な協力体系を確保することを改めて日本政府に要請します。

2012年7月17日

国際刑事裁判所問題日本ネットワーク
事務局長

勝見貴弘


【改正】侵略犯罪に関するローマ規程の改正条項

侵略犯罪に関するローマ規程の改正条項

(※Wikipedia掲載前の部分的自己コピー)

侵略犯罪(しんりゃくはんざい、Crime of Aggression)は、国際刑事裁判所規程に定められる国際刑事裁判所管轄犯罪の一つである。2010年6月11日カンパラで開かれたローマ規程再検討会議において、その定義及び管轄権行使の手続きに関する改正決議(RC/Res.6)が参加国111カ国のコンセンサスにより採択された。但し、改正は2012年5月現在発効していない。

定義

国際刑事裁判所規程(以下、規程)における定義は、次の通りである。

抄訳

第8条の2 侵略犯罪
一、この規程の適用上、「侵略犯罪」とは、国の政治的または軍事的行動を、実質的に管理を行うかまたは指示する地位にある者による、その性質、重大性および規模により、国際連合憲章の明白な違反を構成する侵略の行為の計画、準備、着手または実行をいう。
二、第1項の適用上、「侵略の行為」とは、他国の主権領土保全または政治的独立に対する一国による武力の行使、または国際連合憲章と両立しない他のいかなる方法によるものをいう。以下のいかなる行為も、宣戦布告に関わりなく、1974年12月14日国際連合総会決議3314(XXIX)に一致して、侵略の行為とみなすものとする。
a. 一国の軍隊による他国領域への侵入または攻撃、若しくは一時的なものであってもかかる侵入または攻撃の結果として生じる軍事占領、または武力の行使による他国領域の全部若しくは一部の併合
b. 一国の軍隊による他国領域への砲爆撃または国による他国領域への武器の使用
c. 一国の軍隊による他国の港または沿岸の封鎖
d. 一国の軍隊による他国の陸軍海軍または空軍若しくは海兵隊または航空隊への攻撃
e. 受け入れ国との合意で他国の領域内にある一国の軍隊の、当該合意に規定されている条件に反した使用、または当該合意の終了後のかかる領域における当該軍隊の駐留の延長
f. 他国の裁量の下におかれた領域を、その他国が第三国への侵略行為の準備のために使用することを許す国の行為
g. 他国に対する上記載行為に相当する重大な武力行為を実行する武装した集団、団体、不正規兵または傭兵の国による若しくは国のための派遣、またはその点に関する国の実質的関与

管轄権

認定

規程の適用上、侵略行為の認定(決定)は、国際刑事裁判所又は国際連合安全保障理事会の決定により行うことができるが、国際刑事裁判所は、裁判所以外の機関による「侵略行為」の決定に影響されない。(第15条の2)

行使

規程の適用上、国際刑事裁判所は次の3つの方法で「侵略犯罪」に関する管轄権を行使できる。(第15条の2及び3)
  • 自発的行使: 予審裁判部の許可がある前提での検察官の職権による捜査の開始(第15条の2)
  • 国の自発的付託による行使: 第13条(a)および(c)項に従った行使(第15条の2)
  • 安全保障理事会の付託による行使: 13条(b)項に従った行使(第15条の3)

発効

ローマ規程の適用上、規程の改正には30の締約国による個々の改正条項への批准が必要となる。侵略犯罪については、再検討会議において以下の発効要件が合意された。(第15条の2及び3共通)
  • 30の締約国が改正条項の批准または受諾を行った1年後
  • 締約国の多数により2017年1月1日以降に行われる決定に従うこと

関連条項

(a) 締約国が次条の規定に従い、これらの犯罪の一又は二以上が行われたと考えられる事態を検察管に付託する場合
(b) 国際連合憲章第七章の規定に基づいて行動する安全保障理事会がこれらの犯罪の一又は二以上が行われたと考えられる事態を検察管に付託する場合
(c) 検察管が第十五条の規定に従いこれらの犯罪に関する捜査に着手した場合 
第15条の2 侵略犯罪についての管轄権の行使(国の自発的付託)
  1. 裁判所は、この条の規定に従うことを条件として、第13条(a)および(c)項に従って侵略犯罪についての管轄権を行使することができる。
  2. 裁判所は、侵略犯罪に関する管轄権については、30の締約国が改正条項の批准または受諾を行った1年後にのみ行使することができる。
  3. 裁判所は、規程の改正の採択のために必要とされるのと同じ締約国の多数により2017年1月1日以降に行われる決定に従うことを条件として、本条に従って侵略犯罪についての管轄権を行使するものとする。
  4. 裁判所は、締約国が、裁判所書記に対して行う宣言によりかかる管轄権を受諾しないことを事前に宣言していない限り、第12条に従って、締約国が行った侵略行為から生じる、侵略犯罪についての管轄権を行使することができる。かかる宣言の撤回は、いつでも効力を有することができ、また3年以内に当事国により検討されるものとする。
  5. 本規程の当事国でない国に関しては、裁判所は、その国の国民またはその領域において行われた侵略犯罪についてその管轄権を行使しないものとする。
  6. 検察官が、侵略犯罪に関する捜査を進める合理的な基礎があると結論する場合には、まず最初に安全保障理事会が関係国により行われた侵略行為について決定を下したか否かを確かめるものとする。検察官は、あらゆる関連情報および文書を含む、裁判所における事態を、国際連合事務総長に通知するものとする。
  7. 安全保障理事会がかかる決定を下した場合には、検察官は侵略犯罪に関する捜査を進めることができる。
  8. 通報の日から6か月以内にかかる決定が下されない場合には、検察官は、予審裁判部が第15条に規定する手続に従って侵略犯罪に関する捜査の開始を許可したこと、および安全保障理事会が第16条に従って別段の決定をしていないことを条件として、侵略犯罪に関する捜査を進めることができる。
  9. 裁判所以外の機関による侵略行為の決定は、本規程の下での裁判所独自の認定に影響を及ぼすものではない。
  10. 本条は、第5条に言及されている他の罪に関する管轄権の行使に関する規定に影響を及ぼすものではない。
第15条の3 侵略犯罪についての管轄権の行使(安全保障理事会の付託)
  1. 裁判所は、この条の規定に従うことを条件として、第13条(b)項に従って侵略犯罪についての管轄権を行使することができる。
  2. 裁判所は、侵略犯罪に関する管轄権については、30の締約国が改正条項の批准または受諾を行った1年後にのみ行使することができる。
  3. 裁判所は、規程の改正の採択のために必要とされるのと同じ締約国の多数により2017年1月1日以降に行われる決定に従うことを条件として、本条に従って侵略犯罪についての管轄権を行使するものとする。
  4. 裁判所以外の機関による侵略行為の決定は、本規程の下での裁判所独自の認定に影響を及ぼすものではない。
  5. 本条は、第5条に言及されている他の罪に関する管轄権の行使に関する規定に影響を及ぼすものではない。

各国の立場

日本

日本政府は2010年の再検討会議において、次の3つの理由から規程改正の採択のコンセンサスには参加せず、但しそれを阻止することも行わない対応をとった。
  1. 現行ローマ規程の改正手続との関係で疑義が残ること;
  2. 締約国間及び締約国と非締約国間の法的関係を複雑なものとすること;
  3. 非締約国の侵略行為による侵略犯罪を必要以上に裁判所の管轄権行使の条件から外していること.
政府代表団の団長である小松一郎政府代表(駐スイス大使)は、規定改正に関する投票を行うその前後の『投票理由説明』においてこう述べた。
  • 採択前: 「きわめて不承不承ながら、各国代表団が本改正案を現行案のまま支持するというのであれば、日本政府はコンセンサスを妨げることは致しません。(... it is with a heavy heart that I declare that, if all the other delegations are prepared to support the proposed draft resolution as it stands, Japan will not stand in the way of a consensus.
  • 採択後:「政府代表団の団長として、この岐路に置いて申し述べておかなければならないことがあります。それは今後の我が国のICCへの協力は、我が国が疑義を唱える改正手続に関する問題の解決にかかっているということであります。(As the head of my Delegation, appointed to represent Japan in this Review Conference, it is my duty to register, at this juncture, that the future cooperation of Japan with the ICC will hinge upon whether the ASP can deliver on this with your cooperation. )」

【リヒテンシュタイン】侵略犯罪に関する改正ICC規程を批准した初の締約国に

リヒテンシュタイン改正ICC規程の侵略犯罪条項の最初の批准国に
特定兵器使用禁止条項〔ベルギー提案)にも批准

PGA(地球規模問題に取組む議員連盟)国際本部より以下の発表がありました。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/liechtenstein/image/map.gif
2012年5月10日付けのプレスリリースによると、リヒテンシュタイン公国が8日、2010年のカンパラ再検討会議で会合参加国の総意により採択された「侵略犯罪」の定義と管轄権行使の手続きに関する改正条項の批准書を付託。121のICC締約国初の改正規程の批准国となったそうです。
2010年に採択された規定に基づき、改正規程は30ヶ国の批准を経て発効します。リヒテンシュタインの批准により、残り29ヶ国で改正ローマ規程が発効する見通しとなりました。さて、発効まで何年かかるでしょうか。
PGAはさらに、同国が非国際的武力紛争における特定兵器の使用を禁止するいわゆる「ベルギー提案」を採用した改正条項についても批准したことを歓迎しました。同国は同追加条項については、2011年に批准したサンマリノ共和国に次いで2ヶ国目の締約国となりました。

画像:リヒテンシュタイン公国(外務省)より

リヒテンシュタインが批准した主な改正条項

(第5条ほか)侵略犯罪に関する規定
  • 定義及び管轄権行使の条件
  • 管轄権行使の手続き

    • (a) 1)締約国付託及び検察官の職権による捜査の開始については、国連安全保障理事会による国家の侵略行為の認定がない場合であっても、予審裁判部門の許可がある場合には、安全保障理事会がローマ規程第16条に基づき別段の決定を行う場合を除き、管轄権の行使が開始される。
          2)安全保障理事会による付託がある場合には、それにより管轄権の行使が開始される。
    • (b)ただし、実際の管轄権の開始は、当該改正条項を30か国が批准又は受諾を行ってから1年が経過した時点、又は、2017年1月1日以降に行われる管轄権行使開始についての締約国団による別途の決定の時点、のいずれかより遅い時点となる。

(第8条)非国際的武力紛争における一定の武器の使用の犯罪化
非国際的武力紛争における戦争犯罪を定めるローマ規程第8条2(e)に、「毒物又は毒を施した兵器」、「窒息性、毒性ガス又はこれらに類するガス及びこれらと類似のすべての液体、物質又は考案物」及び「人体において容易に展開し、又は扁平となる弾丸」のそれぞれの使用を対象犯罪とする。


以下、PGAプレスリリース本文の抜粋です。

New York/The Hague, 8 May 2012

Parliamentarians welcome the First Ratification of the New System to contribute to the Prevention of the Illegal Use of Force through a permanent and independent International Criminal Court

Today the Principality of Liechtenstein deposited at the United Nations its instrument of ratification to the two Amendments to the Rome Statute of the International Criminal Court (ICC) which were adopted by consensus by the Review Conference that met in Kampala in 2010. This constitutes the first ratification of the amendment that included a definition for the Crime of Aggression and a procedure for the International Criminal Court to exercise its jurisdiction over individuals who, as leaders of States Parties, plan, prepare, initiate or execute an attack against another State Party of the ICC. Additional 29 ratifications and a vote by the Assembly of States Parties are required to allow the ICC to exercise its jurisdiction over individuals who commit this crime.

The adoption of the Kampala Amendment on the crime of aggression was a historic event and a diplomatic feat. The formula guarantees the independence of the ICC from the Security Council–which has the prerogative to take action against States that violate the prohibition of the use of force contained in the UN Charter. 

The negotiations were successful largely due to the determination and skill of the Liechtenstein Mission to the United Nations, led by Ambassador Christian Wenaweser, who served as President of the Assembly of States Parties until 2011.

PGA also welcomes the ratification of Liechtenstein of the so-called “Belgian amendment,” that gives jurisdiction to the ICC for the war crime of using certain weapons in armed conflicts not of an international character. This is the second ratification to the Belgian amendment, after San Marino in 2011.