国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

人間の安全保障の発展に貢献する日本と世界の道筋と行く末を見つめます。

【資料】(前編)犬塚議員の参議院本会議代表質問書

国際刑事裁判所ローマ規程」および「国際刑事裁判所に対する協力等に関する法律案」参議院本会議代表質問


平成19年4月 13日
民主党・新緑風会 犬塚直史
ただいま議題となりました国際刑事裁判所ローマ規程およびその関連法案につきまして民主党・新緑風会を代表して関係各大臣に質問致します。

ダルフールの状況

一昨年の3月31日、スーダンの状況が国連安保理決議1593によってICC国際刑事裁判所に付託されました。国連によると、2003年以来ダルフールでは20万人が虐殺され、合計250万人が難民となっており、現在でも完全に国際的な支援に頼って生活をしています。決議採択にあたって当時安保理非常任理事国であった我国は賛成票を投じました。12カ国が賛成、反対ゼロ、そしてアメリカ、中国を含む4カ国が欠席しましたが拒否権は行使されず採択に至りました。

外務大臣に伺います。
公然とICC国際刑事裁判所に対する反対を表明してきた米国が拒否権を行使しなかったのは、こうした場面で我国の働きかけもあったのでしょうか。ICCに対する米国の姿勢に変化の兆しを見る向きもあります。大臣の見解を伺います。

さて昨年の夏、私は機会を得てダルフールのカルマ難民キャンプを訪問し、医療団の皆さんと一週間寝食を共に致しました。平穏だった村がジャンジャウィードと呼ばれる武装集団に襲われ、虐殺から逃れてキャンプ生活をしている訳ですが、現在でも薪を集めにキャンプ外に出た女性達が月に百人単位でレイプされるという報告もされています。

滞在中、スーダン精神科医の行っていた現地調査に参加することができました。部族長に了解をとって木の下などに20人ほどが車座になり、質問票に従ってキャンプ生活の実情を語ってもらいます。身の安全、移動の自由がないこと、食料、水、医療、学校がないことが語られました。もちろんこの質問票ではICC国際刑事裁判所について触れてはいませんでした。

外務大臣に伺います。
目の前の生死にかかわる状況を生き延び、長い時間が経過し、和解が語られるようになるプロセスを通じて我国としてはどのような支援をお考えでしょうか。緒方貞子JICA理事長が最近視察されたガチャチャなどの伝統的な和解方法と国際刑事裁判所は今後どんな関係を持ち得るのでしょうか。また真実和解委員会のような取り組みと国際刑事裁判所はどのように補完することができるか、大臣のご認識をお聞かせください。

現地の医師には目の前の病人を助けることはできても、紛争の原因を取り除くことはできません。ICC国際刑事裁判所は、許しがたい戦争犯罪や人道に対する罪を犯した個人を国境を越えて訴追・処罰することで、「何をやっても許される」という不処罰をなくし、もって法の支配を実現しようとするものです。

外務大臣及び法務大臣に伺います。
ICCローマ規程採択後、2000年にコソヴォ東チモールが、そして2002年にシエラレオネ特別法廷が設立されました。ICC発効後も2003年にカンボジア特別法廷が作られました。国際刑事裁判所と国際化された国内裁判所はどのような関係にあるのでしょうか。またサダム・フセインが裁かれたイラク特別法廷はICCと比べてどのような違いがあるとお考えでしょうか。

さて、本年2月27日ICC検察官は人道に関する罪と戦争犯罪51件に関与したとして、スーダン人道問題大臣とジャンジャウィードの指導者の名前を挙げ、証拠を予審裁判部に提出しました。

検察局は、スーダン政府の元内務大臣及び武装集団の指導者の両名を共犯として起訴するに足る証拠が揃ったと発表し、会見の模様は全世界に生中継されました。予審裁判部はこれらの情報を総合的に検討して召還および訴追開始の可否について判断を下すことになります。

そこで外務大臣に伺います。
今後逮捕状が発布され、容疑者の逮捕などについて現地で充分な協力が得られない場合、我国は締約国として今後どのような協力を検討していくのでしょうか。
外務大臣のご認識をお聞かせください。

東京裁判とICC国際刑事裁判所

さて、わが国がこの条約を締結すれば105番目の締約国となります。思えば第二次世界大戦後、事後法による勝者の裁きの誹りをまぬがれないニュレンベルクと東京裁判の反省を踏まえて国連のILC国際法委員会で議論が重ねられ、さらに、旧ユーゴ国際刑事裁判所ルワンダ国際刑事裁判所の経験を経て、人類が初めて手にした常設の国際刑事裁判所ICCであります。

昨年来日されたドイツのカウルICC判事は「日本の加盟はICC設立以来最大の出来事である」とまで評しました。

外務大臣及び法務大臣に伺います。
東京裁判を経験した我国がICCに加盟することにどのような歴史的な意義を感じられますか。

国際刑事裁判所と日本の役割

さて、国際社会は「人間の安全保障」を外交の柱としているわが国の動向に注目しています。わが国がICCを政策上どのように位置づけているのか、アジア諸国を含めた世界各国が重大な関心を寄せているのであります。というのも常設の国際刑事裁判所設立の根底にあるのが、人間の安全保障の理念そのものだからです。

1998年のローマ規程採択にあたり、国際刑事裁判所の管轄権をめぐって外交会議が紛糾した時に、収拾案を提示してその解決に大きな貢献を果たしたのは当時の小和田大使率いる日本代表団でありました。

以来10年間に渡って我国は国内法の未整備を理由に条約の締結を行わなかった訳ですが、今回の法案をみる限り10年間の国内法整備の結果とはどうしても思えません。

外務大臣および法務大臣に伺います。
この法案の整備にどうしてこのように時間がかかったのでしょうか。国内法の整備というのは単なる言い訳だったのではないでしょうか。

裁判官選出プロセスに於ける民間との連携

現在、ICC国際刑事裁判所では、18名の裁判官のうち2名の欠員が生じています。地域代表性の面でもアジア出身者が不足しているのが現状です。この2名の欠員のうち、少なくとも1名については本年11月の締約国会議で補充選挙が行われる予定です。

そこで法務大臣に伺います。
本年開催予定の補充裁判官の選出にわが国から推薦を行う意向はあるのでしょうか。また、判事選出に当ってはどのような基準、手続きをもって最もふさわしい人材を選ぶおつもりか伺いします。

アジア地域に於ける批准の促進

ご存知のように現在アジアはICC締約国が最も少ない地域となっています。オセアニアを除くアジア地域では24カ国中わずか5カ国が締約国という有様です。しかしこの批准した5カ国のうち、わが国が積極的に法整備支援を行った結果、見事批准にこぎつけたのがカンボジアであります。

外務大臣に伺います。
日本がアジアにおけるICCの普遍的管轄権達成の推進役となるためにどのような方策をお考えでしょうか。例えばカナダでは、施行法を発布するとともに、外務省などを通じて批准ガイドのようなものをキットとして無償配布したといいます。アジアで日本が求められているのも、こうした心構えだと思われますが、我国はそのような取組みの準備と意思をお持ちでしょうか。