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【考察】安保理でのISAF任務延長決議採択の真相

ISAF派遣決議更新の舞台裏:グルジア問題を巡る政治的配慮の結末か

国連安保理:アフガン治安部隊を1年延長 全会一致で採択
毎日新聞 2008年9月23日 12時31分
 【ニューヨーク小倉孝保】国連安全保障理事会は22日、アフガニスタンに展開する国際治安支援部隊(ISAF)の任務を1年延長する決議案を全会一致で採択した。グルジア情勢を巡る米国との対立から、ロシアが採択に難色を示すのではとの見方もあったが、「アフガンの安定が重要」との点で両国が一致した。
 決議は、「北大西洋条約機構NATO)の指導力並びにISAFと、海上阻止部門を含む不朽の自由作戦(OEF)連合に対する多くの国の貢献」に謝意を表明したうえで国連憲章7章(平和に対する脅威や侵略に対する行動)に基づき、ISAF任務を来月13日から1年延長することを認めた。
 ロシアは、米軍などによるアフガン攻撃で一般市民への犠牲が増加している点を懸念し、市民の犠牲を減らすよう求める文言を決議案に入れるよう要求。結局、「ISAFや他の国際部隊が市民の犠牲者を減らす努力をしていることを認めつつも、この点についてさらなる強固な努力を求め、市民の犠牲が出た場合、調査を要求する」という文面が入った。
 安保理は01年以降、毎年、決議を採択してISAF任務を延長しているが、昨年の決議案では、日本政府などの働きかけで突然、OEFへの謝意が盛り込まれたことに、ロシアが反発して棄権、全会一致が崩れた経緯がある。グルジア情勢を巡り米ロ関係は「新冷戦」と呼ばれるほど冷え切り、今回の決議案も全会一致での採択が難しくなるのではとの見方もあった。最終的にアフガンの安定の重要性では両国の利害は一致した。
 採択後、ロシアのチュルキン大使は「海上阻止行動がアフガンでの対テロ作戦に限定されることが明確になった。また、市民の犠牲を少なくするよう求める項目も入った」と賛成の理由を語った。ロシアが今回、柔軟な姿勢をみせたことから、欧米にはイランの核開発をめぐる追加制裁でもロシアが最後まで抵抗することはないだろうとの見方が広がっている。
http://mainichi.jp/select/today/news/20080923k0000e030018000c.html

上記の毎日新聞の取材に対してロシアのチュルキン大使が語った「海上阻止行動がアフガンでの対テロ作戦に限定されることが明確になった」ことの根拠となるのは、いわゆる“謝意”前文に新たに追加されたアフガニスタンに於ける対テロ作戦の枠組みの中で適用可能な国際法に準じて実施される」という文言のことです。詳細はWikipedia項目「国連安保理決議1833」を参照。決議採択の報を受けて私自身が作成しました。

■英文 - 前文の21項(強調は前回決議との差異)

“Expressing its appreciation for the leadership provided by the North Atlantic Treaty Organization (NATO) and for the contributions of many nations to ISAF and to the OEF coalition, including its maritime interdiction component, which operates within the framework of the counter-terrorism operations in Afghanistan and in accordance with the applicable rules of international law,

■日本語(仮訳:前回決議の外務省告知文言に追加分を足したもの)

北大西洋条約機構NATO)により提供される指導的役割並びにISAF及びアフガニスタンに於ける対テロ作戦の枠組みの中で適用可能な国際法に準じて実施される海上阻止の要素を含むOEF連合への多数の国による貢献に対する評価を表明し、

ロシア側が前回の1776号のときから継続して求めていたのは、海上阻止行動(MIO)の文言が「アフガニスタンにおけるテロとの戦い以外」の文脈で使用されるべきでないということでした。つまり、MIOの適用目的及び活動範囲が限定されるべきだとして、1776号の採択に棄権したのです。詳しくはコチラを参照。

今回の決議に上記の文言が追加されたことにより、MIOの適用範囲が限定され、それ以外の適用範囲で行われる行動は正規のMIOではないと考えられるようになります。すなわち、日本の海自が行う給油活動も、アフガンに関する活動に限定して提供されるものでなければならないということになります。

これには、グルジア問題も考慮したロシア側の地政学上の配慮があると考えられます。それは、インド洋が日本にとってシーレーン確保のための重要なエリアであると同時に、米露双方にとっても戦略的重要性を持つエリアだからです。つまり、ロシア側にしてみれば、今回も継続して活動範囲の限定を求めたのは、アフガン対応のためのインド洋での展開をNATOを含めた米軍のグルジア問題介入の糸口にしないための政治的配慮だと捉えることができます。ロシア側の今回の主張を安保理が聞き入れたのは、米露関係のこれ以上の悪化を懸念し、OEF-MIOの活動範囲をアフガンに限定すべきというロシアの主張を呑むのが得策だと考えたため、そうした政治的妥協の産物だったと考えるのが真相に一番近いのでないでしょうか。