国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

人間の安全保障の発展に貢献する日本と世界の道筋と行く末を見つめます。

コラム:(3)日本の採るべき選択は二者択一なのか(第二部)

日本の能力の査定《7. 検証》

紛争において、日本の実際の外交能力というものは、これまで十分に発揮されてきたとはいえません。アジア各地において、停戦後のPKO派遣(東ティモールゴラン高原)や司法整備支援(カンボジア)、平和構築支援(スリランカ)などは行ってきた実績がありますが、紛争解決においてはその実績はあまりありません。というより、皆無といってもよいのかもしれません。唯一例外を挙げるとすれば、それはアフガンで行ったDDRでしょう。日本はこれをまったくの丸腰で、非武装で完遂しました。これは世界的にみても快挙です。そしてこれを行えたのはなぜか、DDRを指揮した伊勢崎賢治政府特別代表が帰国後に言った「美しい誤解」があるからです。紛争地において完全に非武装な人間など、誰も信じるはずがない。普通ならそう考えるでしょう。しかし、日本は歴史的にも戦争の加害者であるとともに被害者でもありました。本土大空襲や原爆投下により戦争の惨禍を甞め、限られた主権のなかで戦後復興を遂げた国だからです。そうした日本の歴史的歩みを知るアフガンの人々にとって、日本はまさに「美しい国」なのです。政治的思惑などない、資源・領土的野心などない。そう「誤解」されているのです。しかしその「誤解」がうまく作用して、日本は3年弱のうちに6万人もの元国軍兵士の武装解除に成功したのです。これは、日本の貴重な財産となる経験であり蓄積です。

しかし、「美しい誤解」という観念だけでは政策は実行できません。有効な政策を実行するには、その政策の実現性を検証する知見の集約が必要です。

日本が2003~2006年の間に行ったDDRの実践の評価を、広島大学の平和構築人材センター(HPC)などが行いました。政府がこれを検証することで、日本にも相当な専門的知見が集まるようになっています。実際、この知見の集約を図ることが、まず日本の平和構築能力を検証する上での第一歩ではないでしょうか。PRT、民軍協力、DDRなどのキーワードで探れば、相当な知見が実は日本国内に集結していることがわかります。犬塚事務所では、実際にこれらの人物らに会い、講演を聴き参加し、そして実際に政策について相談を重ねてきました。この知見を集約して、日本の平和構築能力について検証を行い、実効性のある政策を打ち出すのが、政権党は勿論のこと、政権党の政策に反対する野党の責務でもあります。そのための枠組みとして、私は官・軍・民からなる平和構築タスクフォースの創設を提案しています。せっかくある日本の財産ともいえる知見を一箇所に集約し、そこに官・軍・民の専門家を参加させることにより、省庁横断的な政策策定が可能な機構を作り上げるのです。これが、犬塚が参院ODA特別委員会で提唱した「人間の安全保障センター」構想実現の前段階の枠組みとなると考えています。

能力補充の課題《8.仕切り直し》

前段のプロセス(検証)が示しているのは、すなわち現在の日本の体制は十分な能力は発揮できないという前提です。つまり、検証の結果必要とわかったのは、日本の能力を長期的な視野で高めていくことが必要だということです。では、その間、アフガンに対する支援はどうするのか、まったく止めてしまうのか、といえばそうではありません。長期的な能力開発(キャパシティ・ビルディング)政策の実施と同時に、アフガン問題に対して取り組むことは可能なのです。では具体的にはどうするのか。

アフガン復興支援プロセスは、国際的な枠組みの中で行われている国際協力です。つまり、各国がリソースを持ち寄り、役割を分担し、各国のできる協力を行っています。しかし、それが十分でないことは、なにより現状が物語っており、アフガンに対する戦争を始めた当事者である米国までもが、水面下では和平の道を探っていることが、この悲壮な現実をいっそう際立たせています。つまり、勇気ある仕切り直しが必要なのです。これまでの政策・活動の問題点を洗い出し、各国で分担した作業についても適材適所を考えなおし、アフガンと国際社会の各員にとって一番負担の少ないオプティマル(最適)な政策を練り直し、再分担して作業をやり直すのです。これが、国際社会という第三者と、アフガンという当事者の間で双方向の和の解決を生み出すWin-Win(双方に利益のある)ソリューションの考え方です。

仕切り直し(2):反省会議の実施
この仕切り直しの第一弾として、私は日本政府主導の国際和平推進会議の実施を提案します。これは、戦争終結直後に拙速に行われ、今に至る禍根を残した部分的和平しか実現しなかったボン会議(2001年1月)をはじめとし、東京で行われた復興支援会議(2002年1月、2003年2月)の問題点も含め、その後のロンドン会議(2006年1月)、そして第2回東京会議(2006年7月)においても、いわゆるアフガニスタンが抱える諸問題についての検証はなされてきたが、その問題解決のための仕切り直しは提案されてきませんでした。結果、様々な問題を抱えつつも、2001年当時のG8の枠組みのまま、国際社会はアフガンに取り組み続けてきました。抜本的な「仕切り直し」をせずに、「当事者意識」をもたずに自らの取り組みの「改革」を行わずして、一国の改革など行えるはずもありません。現在のアフガンの状況の責任は、アフガンに関わっている「当事者」たち一人一人の責任です。他人の国を作るということは、それだけ業の深い行いなのです。その自覚なしに、いくら小手先で支援金を増やしたり部隊を増やしたりしても、何の前進も得られません。日本はここで敢えて、自らも含めて国際社会に「猛省」を促すべきなのです。それが、昨年の東京会議でありもしない平和について「平和の定着」と現状を無視して次の段階に運ぼうとした日本の業でもあります。

仕切り直し(3):特命全権大使の任命
さて、各国と「足並み」を揃えることは上手な日本でも、自らの主張をぶつけ国際社会を批判するなどという芸当は、日本の外交力には望めないかもしれません。しかし、そこは政治の主導により「させる」のです。それが、政治の仕事だからです。まず国際和平推進会議の実施にあたっては、政府代表として特命全権大使を任命します。特命全権ということは、政府によりすべての権限を掌握する者として特別に任命されるということです。そこには省庁内や省庁間の制約は存在せず、政府特命全権としての権限をフルに活用できることを保証しこれを、政治が実施させます。次に、この特命全権大使を筆頭にアフガニスタン平和再構築タスクフォース」を結成し、全権大使の下に、アフガン和平推進担当全権と、アフガン治安回復担当全権を置き、3人体制でその下に官・民・軍が一体となったオールジャパンのタスクフォース実行部隊(プロジェクトチーム:PT)を置きます。3全権主導のもと、PTで政策レビュー(再検討)と現状解析を行います。そのレビューの結果に基づいて、PTの中で改善策を提案します。タスクフォースの提案について国会で審議を行い、法案化が必要であれば法案化に必要な手順を、必要でなければただちに政治イニシアティブとして、タスクフォースの提案に基づいて実行計画を策定します。このとき、国会とタスクフォースは緊密な連携をとり、法案化の有無に関わらず政治力の発揮によりタスクフォースを支えます。これは、委員会などでの専門作業部会の設置などにより実現できるものと思われます。

(つづく)