国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

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第6回「自民党有志によるICC勉強会」報告(2006.03.14)

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                   議連結成を決意した勉強会のコア・メンバーの面々

 自民党有志による第6回ICC勉強会が、3月14日午前8時より自民党本部リバティ2会議室で行われ、本人9名、代理43名の議員が出席した。(世界連邦日本国会委員会からの本人出席は高村正彦氏、愛知和男氏、伊藤公介氏、伊藤信太郎氏、北村誠吾氏、柴山昌彦氏、森山眞弓氏の7人。(派閥別世話人名簿
 代表世話人の伊藤公介氏の指名により、柴山昌彦氏が司会を担当。

高村正彦(座長)の挨拶
今まで勉強会という形でやってきたが、もはや勉強という段階ではない。年80兆円の予算を持つ日本が、30億円の予算のことでICCに入れないというのでは情けない。こうなれば政治の出番だ。この勉強会を議員連盟に発展させ、ICC加入のために具体的に取り組みたい。

 今回は、前回の勉強会からさらに踏み込んだ内容で、政府の見解、整備すべき国内法・予算についての説明を、省庁の担当官から受けた。外務省からは国際法国際法課の秋葉剛男課長と菅原清之課長補佐、法務省からは刑事法制局国際課の瀬戸毅国際刑事企画官と松本麗局付が出席。秋葉氏と瀬戸氏により、以下のような説明があった。

ICCと日本

 2009年にICC規定の見直し会合があり、その時までに加入したいと思う。2005年3月、安保理決議によってスーダンダルフールの件がICCに付託されることとなった。この時、日本は、ICCに付託することに賛成し、更にアメリカに対して説得に回った。一部誤解があるが、「わが国がICCに加入していないのはアメリカに気兼ねして云々」という人がいるが、もはや日本政府としてはそういうことは考えていない。
 日本はまだICCに加入してはいないが、では国際法廷に貢献していないかというとそんなことはない。ICCの他にもルワンダ、ユーゴ、カンボジアクメール・ルージュ)、東チモールなど特別裁判所が5つある。東チモールクメール・ルージュシエラレオネの法廷に於いては、当該の国内裁判所と協力するという形で裁いている。つまり、現地の裁判官と国際裁判官が混合で裁判官チームを結成している。
 実はICCに対しては、一部の途上国からは「ヨーロッパの価値観を押し付けるものだ」との批判もある。実はまだICCも万能ではなく模索している段階である。模索段階ではあるがICCは大変意義ある試みであり、その創成期のルールメイキング段階で、日本が入っていなくて良いのか、と強く思う。加盟国会議に出席すると、毎回分厚い資料が配られ、いろいろなことが決められていく。この時、オブザーバーとしての発言と加盟国としての発言では重みが違う。日本もルールメイキングに参加すべきだと政府としては考えている。

国内法整備

 手続法としては、引渡し、証拠提出、罰金没収、賠償命令などに関するものが必要。実体法については、

①集団殺害罪の扇動罪
→わが国では実行行為があって初めて犯罪が成立するという体系になっているので扇動罪の規定はないが、この様なことが起こることを規定する必要はないのではないか。
②ICCでは公的地位にあっても免責されない
→これがたとえば議員の免責特権との関係が一応問題になりうる。しかし、これも想定する必要はないのではないか。(つまり、議員が国会でICCに関する犯罪を命令するということは、ほとんど考えられない)
③上官が犯罪の事実を把握すべき時や情報を意識的に無視した時の刑事責任
→日本の刑法総則の責任主義との関係で問題になりうるが、特に齟齬をきたすものではないと思われる。

予算

 2006年度予算をベースにすれば、30億円。国連の通常分担率のシーリング(22%)を適用すれば25億円。これを毎年払うことになる。日本は既に旧ユーゴ、ルワンダ国際法廷に毎年約5,100万ドル(約55億円)、クメールルージュ法廷に国連負担分の半分にあたる約2,200万ドル(約24億円)を払っている。したがって日本はまだICCに入っていないとは言っても、国際司法に対して非常に大きな貢献をしている。予算のための今後の取り組みとして、まず、国連の分担率22%を下げることにつき、わが国の主張に対する理解と支持を求めたい。旧ユーゴ(ICTY)、ルワンダ(ICTR)の国際法廷の「完了戦略」の着実な実施を求める。
 しかし、ミロシェビッチが死んだからと言ってすぐICTYが終わるのではない。総数161名中、まだ半数近くにつき手続きを進めなければならない。カラジッチ、ムラジッチなどが逃亡中。主な人で逃亡中なのが6名いる。2010年に確実に終わるのか、難しいかもしれない。ただし、ユーゴで一部国内裁判所が機能し始めている。これをもう少しうまく使えないか。仮に2010年にICTY、ICTRが終われば毎年55億円が浮くことになる。では、ICTY、ICTRが終わるまでICCに入れないのかというとそんなことはない。ただ、現在の財政状況の中で毎年25~30億の予算を組むにはどこかを減らさなければならない。
 今年の秋、ニューヨークで国連分担率の交渉が行われる。今、わが国の分担率が19.5%。これを下げてもらうために努力している。仮に1%下がると、今日本が国連に払う総額1,500億円、これの約20分の1が減るということなので75億円払わなくてよくなる。この分担率交渉によってICC予算の確保ということも考えられる。

加入までの日程

 ICC規定見直し会合が2009年に開催されるが、それまでに締約国となっておくと良いのではないか。18名の裁判官が3年毎に6名改選される次回選挙は2009年1月末。立候補者を指名する期間は2008年7月~10月と考えられる。加盟しなければ日本から裁判官を立候補させられない。よってこの時までに入っておきたい。

質疑応答

【質問①】
アメリカや大国が加入にしていない理由は何なのか。
【回答】
アメリカは自国の兵士が訴えられるのではないか、ICCが政治的に使われるのではないかということを懸念している。ただし、国務省のリーガル・アドバイザーが非公式ながらICCに接触しているという動きもある。ただ、アメリカは議会の反対が、民主党共和党を問わず強そうである。中国はスーパーナショナルなものに抵抗が強い。ロシアは署名はしたが、批准はまだ。今後検討するという。

【質問②】
批准に間に合えば、日本から裁判官を出すことは実質的に可能なのか。

【回答】
ICCに日本から裁判官を出すと言っても、そういう人材が中々いない。ICC事務スタッフを探しても、人材が見つからない。ケンブリッジ大学法学部に中国は毎年300人くらい留学生が行くが、日本人は10人くらいだ。国際的な法曹養成を中長期的に行う必要がある。今度できる議員連盟では、日本がICCに加入したら終わりというのではなく、そんなことも考えていってほしい。

【質問③】
国際刑事裁判所(ICC)だけでなく、国際司法裁判所(ICJ)も改革が必要なのではないか。
【回答】
ICJの場合は、応訴義務がないという点が問題。中国との領海の問題など、両当事国が同意しないと裁判にならない。応訴義務を入れることには主要国が全部反対しているが、応訴しない方がおかしいという感覚が養われることが必要。

【コメント】
「政府全体で取り組む」というが、外務省が腰をすえる必要がある。ICCに入ると外務省の他のところが削られるということで腰が引けている感じがあるが、最初から「政府全体で」ではなく、外務省が本腰を入れるべき。

質疑応答の後、議員連盟自民党だけでいくか、超党派にするか、意見が交わされたが、まず自民党をしっかり固め、議員連盟としては自民党、場合により勉強会は超党派で合同も考えるということになった。

議員連盟の設立総会は4月14日午前11時より第2議員会館第3会議室で行なわれる。

文責:世界連邦運動協会 木戸
構成:JNICC 勝見