国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

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【反証】天木直人氏の米大統領弾劾決議に関する日本メディアへの指摘

以下は、Yahoo!掲示板における、元駐レバノン特命全権大使であり作家・活動家でもある天木直人さんのブログ記事『ブッシュ大統領弾劾決議の動きを報じない日本のメディア』に対するコメントを求める投稿への対応として、当該トピックに私・JNICC勝見が書いたコメントに強調などのタグを付加して転載したものです。同トピックは更新が早いのでこちらに転載しておきます。


天木さんは米国における立法プロセスをご存知ではないのでしょうか。

日本の国会では委員会で審議を重ねられた「法案」が本会議にて採決をとられますが、米議会では下院で採択されたものが下院の委員会に付託され、その後上院可決→上院委員会可決→大統領による署名によって法案成立となります。無論、弾劾「決議」には大統領の署名は要りません。ただし両院による可決が不可欠なのは事実です。また「決議」は、こうした法案採択のプロセスを経る必要がありません。まずはこの基礎を押さえておく必要があります。

11日付けの米ボストン・グローブ(Globe)紙によれば、たしかに天木さんが書かれたように、下院では251対166の大差で弾劾決議に関する採決がとられています。しかし、その内容が問題なのです。決議はこれで成立したわけではないからです。

Globe 紙の記事には、米下院は司法委員会に審議を付託したとあります。さらに、委員会では採決を行わないだろうということも。Globe紙の見方では、そもそも下院が司法委員会に審議を付託したということ自体が、下院本会議での審議と採決を避けるための手段だということです。つまり、決議案を殺すため下院は決議の審議を委員会に付託したのです。

Globe紙によれば、そもそもこの決議案は民主党の大統領選の予備選候補者であったデニス・クシニッチ下院議員(英文)が提案したものだそうです。クシニッチ議員は「決議案」として提示することで通常の委員会審査を省いて本会での採決に持ち込めると見込んでいたようです。しかし、彼の同僚議員らはこの種の「弾劾決議」の採決に反対し、党首脳もこの動きには反対し続けてきたという実情があるそうです。そこで、「法案」ではなく「決議」として提出された「弾劾決議」に対し、多数派の民主党は反対せずにいったんは委員会に通し、そこで決議を殺すという戦術に出たのです。これに対し、少数派の共和党166名が反対した結果、251対166で決議の付託が承認されたという図式です。多数派の民主党は委員会で決議を殺すために、少数派の共和党は、民主党が弾劾決議を出した事実を知らしめるために「反対」による抵抗をしてみせたというのが、同紙の分析です。

これが、11日時点で明らかにされていた事の顛末です。

天木さんはもう少し事実関係を精査してから記事を書かれたほうがよかったですね。

"Democrats scuttle proposal to impeach Bush" (The Boston Globe)
民主党ブッシュ大統領の弾劾提案を沈める」(直訳)
民主党ブッシュ大統領の弾劾提案を葬る」(改訳)

追記

尚、同様の分析は中東アルジャジーラ紙を含む他メディアでもなされています。


これらの情報をロクに精査もせずに『米下院、大統領弾劾決議を“可決”』などど書こうものならば、日本のメディアは確実に世界中の失笑を買ったことでしょう。動かざることが正しいこともあるのです。天木さんの仰るとおり、日本人の自立は、米国の「正確な理解」から始まります。今回の決議は、殺すために常設委員会に送付され、そのことに“賛成”する議員が251人もいたということなのです。共和党166人が“反対”したのは、内政の一大事という今、弾劾決議の審議などに貴重な会期を費やそうとする民主党を公然と糾弾する場を設けるためです。そのため、本会議で審議し採決すべきだと考える共和党議員166人が、決議の委員会送付に“反対”したのです。これが、「正確な理解」です。