国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

人間の安全保障の発展に貢献する日本と世界の道筋と行く末を見つめます。

【テロ特措法Q&A】政府新法への疑問について(1)

以下は、本ブログのゲストブックでの一連の質問に対する私なりの見解をまとめたものです。

かんすけさんより
Q1:
決議1776には「海上阻止部隊を含むISAF及びOEF同盟への多数の国家の貢献に対し謝意を表明し、」とありますが、ロシアは棄権しています。理由は「一貫してISAFおよびその任務の継続を支持してきたが、新たに加えられた[海上阻止行動]に関する問題が解消されていないため、現行の文面では支持できない」そうです。そして、国際的評価とはいえ外務省HPでは12カ国にすぎず、UAEの「わが国の国益にかなう」発言で「石油」マネーが絡んでいるような気がしてきました。

A1:
決議1776に対するロシアの見解については、国内の報道では採択後の公式声明ばかりがクローズアップされていて、決議の採択時にどのような状況だったのかが報じられていません。この件については政策ブログで詳しく国連の公式報道のことを取り上げています。
ロシアは、日本が今期は非常任理事国ですらないのにアメリカの後ろ盾を利用して決議に条文をねじ込んだことを非常に不快に感じたようです。これは安保理の権威に対する挑戦でもあり、ロシアは伝統的に安保理の権威を守ることに腐心してきましたから、日本の越権的な行動に対する警戒感を顕にしたのでしょう。

UAE(アラブ首長国連邦)にとっての国益とは石油ではなく対米関係です。石油では十分に儲けており、日本がアメリカがライセンスを持つ油をのアメリカの民間企業を介して購入する油についてUAEには実質なんの利益もありません。

UAEは湾岸戦争以降、アメリカの中東戦略を支える要です。中東の盟主であるサウジアラビアアルカイダなどによるテロにより弱体化してしまい中東に頼れるパートナーがいなくなったアメリカにとっては、UAEが二番手なのです。つまりアメリカの関係を重視して日本が給油を続けることは、UAEにとっても政治的な利益になるという意味で「国益にかなう」のです。実際、UAEの艦船はOEF-MIOには参加してないでしょう。

Q2:
政府の新法案によると、国連決議1368と1776を引用していますが、1776の中では「1368を再確認し、1386・1510において定められた国際治安支援部隊への権限を延長」とされています。「謝意」はOEFに対してのものであり、日本に対してのものではないと認識しています。何か矛盾を感じます。

A2:
国連の決議において、特定の国が明記されることは、制裁の対象国や批難の対象国を記載するなどのほか、ほとんどありません。1776では「海上阻止部門も含むOEF連合の貢献に謝意を表明し」とあり、OEF全体の活動に謝意を表しているに過ぎません。決して特定の国の、特定の法律に基づいた活動を指しているわけではありません。法案で1776を参照し、あまつさえ国会提出資料において 「国連安保理決議1776は、我が国のテロ対策特措法に基づく活動による貢献に対する評価を表明」と明記してしまった点については、犬塚が先日25日の外交防衛委員会で手厳しく追求しました。近々、参議院審議中継で公開されると思います。いま暫くお待ちください。

Q3:
外務相・防衛相・首相が各国の要人から「支援要請」の発言を取り付けた時期がすべて「会期前」「総裁選期間中」のどちらかなのは、何か政府の策略のようなものを感じます。

A3:
策略ではなく、国策でしょう。
国を挙げて取り組んだ結果です。

Q4:
憲法98条では日本国憲法最高法規と定めていますが、国連憲章はそれより上か下か。国連とは「条約」により加盟したことまではつきとめましたが、通説では「憲法優位」とのことです。関連の主意書も入手しました。「憲法優位説」に立つとOEFへの参加は「憲法違反」だと思いますが・・・。 

A4:
憲法論議をすると必ずこの最高法規の点が問題になりますが、要は国家の最高法規である憲法の体制のもと締約された国際条約(国連憲章も国際条約です)は、誠実に履行されなければならない、ということです。つまり、条約の内容が憲法違反であればまず条約に締結できないはずなので、憲法の規定に従って締結された条約で「あれば」これは履行しなければならないということです。たとえば、国連への加盟そのものが憲法違反だとは、おそらく誰も主張しないでしょう。ということは、国連憲章そのものが違憲ではないことを認めていることになります。ならば、誠実に履行しましょうというのが、この論議の核にある憲法優位説です。

ところで、関連の主意書ってなんでしょうか。
興味がありますのでご提示ください。

前段の結論により、憲法優位説とはあくまで条約を締結するなかで憲法が尊重されることを意味することを説きました。したがって、国連憲章上「個別的又は集団的自衛権の行使」であるとして認められたOEFへの参加は、国連憲章上は“合憲”となります。ただし、日本が独自に集団的自衛権の行使を憲法上の制約として禁じている場合は、日本が主体的に憲法により定めたことが優位となります。国連憲章も、結局は日本が固有の憲法に基づき、憲章に「強制」されないことを理由として日本は参加を決めたものです。

つまり、国連憲章が「認める」権利というのは、加盟国に対して「強制」されるものではありません。ですから、日本はたとえ憲章が「認めて」いても、集団的自衛権を国家として認める義務はないのです。一方、国連が集団安全保障措置により加盟国に「求める」行動は、これは国連の「強制」であり、日本は原則加盟国としてこの「強制」に応じる義務があります。

ISAFへの参加は、この後者に当たります。しかし、派遣義務を履行するかどうかは、これも主権国家が主体的に決めることであり、国連安保理による「強制的措置」だからといって、これに必ず従うという国家は存在しません。もし、安保理の強制的措置が絶対的に加盟国に履行義務を負わせるものだったら、国連PKOの部隊派遣数は、こうした結果には陥っていないでしょう(詳しい説明はこちら)。

以上です。