国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

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【テロ特措法Q&A】小沢代表の発言の矛盾について(2)

以下は、本ブログでの一連の質問に対する私なりの見解をまとめたものです。

Q2:
今日の朝日新聞の社説の一部です。
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ただし、論文にはいくつか基本的な疑問がある。
まず、国連のお墨付きがあれば武力行使に参加できると読める点だ。国連のもとでの国際安全保障と、いわゆる自衛権の行使を区別する考え方は分かるにしても、国連決議があれば自衛隊が戦闘に参加してもよいというものではあるまい。
ISAFの活動にしても、当初は治安支援に力点があったが、最近はアフガン南部でのテロ組織の掃討作戦などと重なり、多くの死者も出ている。そこに自衛隊が加わって同様の活動をするということなのだろうか。どのような活動をイメージしているのか。

また、国連決議といっても、PKO派遣を明確に規定するものから、既成事実を追認するだけのものまで様々だ。それぞれの背景にある国際社会の合意の実態を踏まえて、判断しなければならない。
米国のアフガン作戦は国連そのものの枠組みではないにせよ、国際社会の広い支持はあった。「あれは米国の戦争」という切り捨て方には違和感がある。
小沢氏の論は、これまでの憲法解釈を大きく変えるものである。それを形にするため、安全保障に関する基本法を作るのか、自衛隊をどんな原則で派遣するのか、武器使用の基準をどうするのか。体系的な議論が必要だろう。
それなしには、とても現実的な国際安全保障政策とはいえない。
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この社説についてのお考えをお聞かせください。
okirakunyaoさんより


A2:
「国連決議があれば自衛隊が戦闘に参加してもよいというものではあるまい。」→これはその通りだと思います。またその理由についてもこれまでの他者へのレスなどで述べていますが、改めて補足も加えて以下にまとめます。

一、ISAFの実態の問題

ISAFは治安維持支援を目的に集団安全保障措置として設置を認められたものですが、PKOとは任務の違う多国籍軍によって編成された部隊です。更に、自衛権行使のための多国籍軍であるOEFと、集団安全保障措置としての多国籍軍であるISAFは、その指揮権が完全に統合されつつあります。2006年まで16,000人だったOEFの戦力のうち8,000がすでにISAFに吸収されているのが現状です(ISAF公式サイト「ISAFの拡大」を参照)。結果、ISAFの総兵力は現在35,000を越えています。これは、OEFの戦力がそのままISAFの戦力へとスライドしているからです。

つまり、ISAFとOEFはほぼ一体となってきており、日本がISAFに派遣する場合は、OEFの任務を引き継いだISAFに加わることになります。OEFの任務はタリバンアルカイダ残存兵に対する武力行使です。ISAFがOEFの任務を引き継ぐのであれば、日本の自衛隊は最早ISAFにも参加できません。

一、PKO法の原則に基づいた制約

仮に、ISAFとOEFの一体化の問題を「存在しないもの」と考えても、ISAF単独であっても日本が自衛隊PKO法の3原則に基づいて派遣する場合は、その制約に準じなければなりません。その制約は、以下のとおりです。(内閣官房資料

 基本原則
 (1)武力による威嚇又は武力の行使を禁止
 (2)いわゆる非戦闘地域で活動
 (3)外国での活動は、当該外国の同意がある場合に限る

上記の原則のうち、(1)は当然のことながら、まず(2)の条件に見合う活動領域をアフガニスタンで見つけるのは至難の業でしょう。それに、ISAFに加わった場合は、そのPRT部隊でも、イラクサマーワのように基地に引き篭もって現地の人間に遠隔指導すれば足りるわけではありません。実際に、戦闘に陥るやもしれない状況に自ら身を置く事になるのです。そういう可能性がある時点で、ISAFへの派遣は、たとえISAFとOEFの一体化の動きを存在しないと考えても、現行法体系上は不可能なのです。(3)については、イラクのとき同様、親米政権が活動の同意を与えることはわかりきっていますね。

「また、国連決議といっても、PKO派遣を明確に規定するものから、既成事実を追認するだけのものまで様々だ。それぞれの背景にある国際社会の合意の実態を踏まえて、判断しなければならない。」→これは小沢代表の発言を「援護」してしまっているようにも思えますが、要は様々な状況を勘案した政治判断になるということでしょう。この記述は、小沢代表の主張にポイントを与えてしまっていると思いますね。

「米国のアフガン作戦は国連そのものの枠組みではないにせよ、国際社会の広い支持はあった。「あれは米国の戦争」という切り捨て方には違和感がある。」→「米国の戦争」という言い方は確かに乱暴ですね。しかし代表は正確にそう述べている記述は論文にはありません。ここは、メディアとしては公正を期してほしいものですね。小沢代表がそう述べているように捉えられる箇所は、次の部分だと思われます(本日発売の雑誌『世界』11月号掲載の記事『今こそ国際安全保障の原則確立を――川端清隆氏への手紙』より)。

『現実に、米国はもはや、一国で世界の平和維持、すなわち国際社会の警察官の役割を果たすことが不可能になっています。今日のアフガニスタンイラクの実態は、その結果にほかなりません。米国のブッシュ大統領は、「これは米国の戦争、自衛戦争だ。したがって国連の決議はいらない」と啖呵を切ってアフガン戦争を始めました。しかし実際には、当然ながら、米国単独では収められず、国際社会に助けを求めているのが現状ではないでしょうか。』

この発言は、小沢代表自身が「あれは米国の戦争」と言っているのではなく、ブッシュ大統領が言った発言を引用し、さらに現状に言及することで、米国がもはや、世界の警察官としての能力を持たなくなったことを指し示しているに過ぎないのではないでしょうか。「あれは米国の戦争」と切り捨ててるようには、その文脈からは感じれません。

「小沢氏の論は、これまでの憲法解釈を大きく変えるものである。それを形にするため、安全保障に関する基本法を作るのか、自衛隊をどんな原則で派遣するのか、武器使用の基準をどうするのか。体系的な議論が必要だろう。」→これは「議論が必要」という朝日の考えに同感ですが、まるで朝日が憲法解釈を大きく変える論を形にすることを肯定しているようにも聞こえますね。これは、朝日らしからぬスタンスのように思えます。

私自身は護憲派なので、仮に安保基本法を作るとしても自衛隊を派遣するような原則があるとすれば、それには軍事的介入の新たな国際基準となりつつある「保護する責任」の6原則を盛込みます。

1. 正当な権限 - 国連憲章第7章、第51条、第8章に基づくものでなければならない。
2. 正当な理由 - 大規模な人命の喪失、又は大規模な人道的危機が現在存在し、又は差し迫っていること(急迫不正の侵害)。
3. 正当な意図 - 体制転覆等が目的でなく、体制が人民を害する能力を無力化することが目的でなければならない。
4. 手段の均衡 - 措置の規模、期間、威力などは、人道目的を守るために必要最小限でなければならない。
5. 合理的見通し - 。干渉前よりも事態が悪化しないという、措置の合理的な成功の見通しがなければならない。
6. 最後の手段 - 交渉、停戦監視、仲介など、あらゆる外交的手段および非軍事的手段を追求したうえで、それでも成功しないと考えられる合理的な根拠があって初めてとられる手段でなければならない。


また、これまでの政府答弁を覆してまで新たに武器使用基準など、「正当な武力行使」の要件を設けるのであれば、これも非常に厳格なものにせざるを得ないでしょう。この考えについては、政策ブログでも論じているので犬塚さんも同調して下さると思います。つまり憲法の規定をより厳格に国内法に反映するという手法です。そのために、新たに国際基準となりつつある新原則を追加して、自衛隊の派遣原則をさらに厳格にする─この担保が得られないのであれば、私は個人的には小沢代表の姿勢には賛成できません。

欄外ですが最後に、私は今回のレスをしてみて逆に朝日の姿勢がわからなくなってきました。朝日はかつて、「社説21【提言】日本の新戦略」と題して安全保障基本法の新設を提唱していたことがあります。

その中では「平和安全保障基本法」をはじめとし、「独自の武器使用基準」「銃で守られ人道復興支援」など、一歩踏み込んだ安全保障論を展開していました。だからなのか、朝日は小沢代表の論理を批判しながらも、自ら提唱する平和安保基本法実現に向けて小沢代表の考えを当てはめようとしているようにも思えました。あくまで私見ですが、考えを述べるように求められたのでこのように述べさせて頂きました。

以上です。