国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

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【テロ特措法】新安保理決議起草の動きは民主党の勝利といえるか

本日付けの報道によると、テロ特措法の延長をめぐり、国連安保理において、日本の海上自衛隊が参加するOEF-MIO(海上阻止行動)についてこれを「容認」する決議を起草する動きが表面化しています(19日、日経)。私はこの一見外交上の「成果」を、「政治」と「道義」の2つの側面からそれぞれ反対の視点から洞察ができるのではないかと思っています。

■政治的には勝利

党としては、小沢代表がシーファー会談で出した条件をそのまま日本政府、米国政府、国連安保理が呑むという状況になっているので、これは政府でもない野党が与党政府を思い通りに動かして、賛成の条件を短期間のうちに満たすように仕向けた点で「政治的勝利」といえると思います。

小沢代表は、参院選での圧勝により、国会でのキングストン弁ともいえるポジションを確保し、その利点を以って米国政府を交渉の場に着かせ、条件を提示し、これを呑ませることで米国政府経由で与党政府を動かした──これは、外交面での政権担当能力を示す上ではかなり効果的なパフォーマンスとなったかもしれません。なぜなら、仮に民主党が与党政府だったとしても、同様の条件を提示し、働きかけを行うことで目標を達成することが可能だったと容易に想像できるからです。今回、日本政府はまるで小沢代表の意のままに動く駒のように動きました。これはまさに、「政治的勝利」といえるでしょう。

仮に、国連で新決議の検討が進められることになったら、中国・ロシアを含む常任理事国は全てこれに賛成するでしょう。政治的思惑から中ロのいずれかが棄権票を出す可能性はありますが、「謝意」決議の採択でも見られるように、現在の安保理の構成では数の上でもさしたる反対なしに決議が採択されるでしょう。国連広報センターの情報によれば、さらに日本にとって有利なことに、10月には日本が安保理の議長国となります。法案の延長の審議が10月にずれ込むことは必至なので、ここでも日本政府は容易に決議採択への動きを本格化できます。

※追記 09.20.2007
上記の「日本が議長国となる」というくだりは、これは筆者の勘違いでした。日本は2006年度に非常任理事国を務め、今期は安保理のメンバーに入っておりません。広報センターの表を見て早合点しました。一定時間を原文のまま残しますが、この場にてお詫びいたします。

■道義的には敗北

そもそも、民主党が、インド洋における海上阻止活動(OEF-MIO)への参加が安保理決議なき活動」であることをテロ特措法に対する最大の反対理由に挙げていたのは、「決議なき活動」がイコール「大義なき活動」でもあるからです。国連中心主義を標榜する民主党では、国連の決議なしの行動に安易に賛同したり協力してはならないという基本的な政策理念があります。この基本理念にしたがって、民主党はテロ特措法の延長に反対してきました。つまり賛成するには道義的に問題があったのです。さらに、国連決議なしの活動は、集団的自衛権の行使にあたるのではないかという問題もあります。

大統領演説により911テロへの報復行動として米世論を説得し、安保理への事前報告により個別的及び集団的自衛権の発動として国連を説得して始められた英米によるアフガニスタン攻撃は、最終的な武力行使の容認決議を得ないまま、NATOの憲章第5条の発動や国連憲章の原則に従って米国の主権の行使を容認するという形で国際社会に認められてきました。

現在問題となっている国際治安支援部隊(ISAF)は、このような流れの中で新たな国連安保理決議によって設置された多国籍部隊です。その主導権はNATOが握り、NATOは国連のマンデートを実行する実践部隊として作戦を行い、その活動は当然国連によって「容認」されています。

一方で、日本が参加する不朽の自由作戦(OEF)は、米軍主導で始められたもので、国連安保理は一連の決議の中で、これを個別的及び集団的自衛権の発動に拠るものとして「認知」しています。つまり、日本はそもそも国連が「認知」する米軍主導の作戦にのみ参加していることになり、これは集団的自衛権の行使を禁じる憲法上の制約にも反することではないか、という潜在的な問題が付き纏うわけです。

仮に、現在検討されている新安保理決議により、日本が参加するOEF-MIOに対する新たなマンデートが与えられた(「容認」された)場合、それはこれまで国連が「容認」できなかったOEFの活動が、“後付けで”容認されたことになり、ではなぜISAFを新たに設置する必要があったのか、またなぜOEFの活動が当初は認められていなかったのかという2つの点について、道義的な問題を生じさせます。

仮に安保理でこの問題が十分に議論されないまま、日米英仏の主導で安易に決議が通ってしまった場合、日本は確かにOEF-MIOに継続して参加できることになりますが、同時に国連安保理が過去6年に渡って区別してきたOEFとISAFの道義上の相違が済し崩し的に消滅してしまいします。それは、国連中心主義を掲げる民主党にとって、国連の決定の正当性を損なわせ、掲げる大義の希薄化を意味します。

このことを、私は「道義的な敗北」と捉えます。

2つの全く異なる視点から総合的に見て、今回の国連での一連の動きを「勝利」と捉えるかどうか──

党首脳部では、謝意決議が採択されようとしている動き(19日、共同)があることについて、「安保理決議は必要条件であって十分条件ではない」(19日、日経)という意見が出されていますが、個人的には「単なる条件の問題ではない」と思っています。

しかし、その最終的な判断は、日本の有権者に委ねられています。


※追記 09.21.2007
参考:党内でのさまざまな捉え方
●前原副代表の『中央公論』寄稿記事
・『民主党は、試されている=前原誠司』 (その1) (その2)
Last Updated: 09.21.2007