国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

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【報告】(中編)ジャカルタICCディスカッション参加報告

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                         問題人物のユウォノ氏─左

会議に“点火”する問題人物の暗躍

●パネルディスカッション(続き)

興味深かったのは次のスピーカーで、唯一インドネシアの学会代表で出席したDr. Hikmahanto Juwonoという国際法の教授が、ICCにまつわる話として珍妙な指摘を行い、その後のオープン・ディスカッションに点火した。インドネシアの国際人権NGO、ELSAMの代表のAgung Yudhawiranataによれば、この学者は国際法の専門家とはいっても国際ビジネス法の専門家であって、国際刑事法や国際人権法の専門家ではないとのこと。これは後に分かったことであるが、その指摘のとおり、この学者はICCおよび国際法全般に関する見識のなさを露見することになった。Agungによれば、彼は同様の講演をインドネシア軍の講義でも行っており、ICCの推進派というよりは反対派の知恵袋のような役割を担っているとのことだった。しかも厄介なのは、インドネシアにおいて「学者」という権威が持つ影響力が悪用されている点にある。

当日の会議場にはメディア関係者が溢れ、このパネル・ディスカッションの模様は、国内の有力英語紙であるジャカルタポストの翌日の朝刊にすぐ掲載された。その記事の中で、このJuwono(ユウォノ)教授の指摘がそのまま大きく取り上げられていた。曰く、

ICCには不遡及の原則があるので、加盟により国内のすべての人権問題が解決されるわけではない」
という指摘─当たり前である。

さらに、

ICCは2008年(インドネシアの加盟予定年)以降の犯罪しか裁けない」
と、ICCの管轄権の発効が2002年7月1日以降に行われた全ての犯罪に対してであることもまったく無視されていた。現地で記事を読んでELSAMにすぐに記事の訂正をメディア側に求めるよう要請したが、ELSAMは動かなかった。その代わり、今後ICCに関わる会議にはユウォノ教授を招待しないことがジャカルタ内のNGOの総意であることを明かした。今後、同氏が今回のような国際的な会議での場で無責任な知識をばら撒くことはなくなるだろう。

途上国には、少なからずユウォノ氏のような「問題人物」がいて、政府あるいは軍の代弁者となって物議をかもし、それら勢力が望まない方向に進むモメンタムを削ぐ役割を担うようである。これは、途上国におけるdissemination(正しい知識の伝播)戦略を考える上で有益な経験だった。

しかし会議の現場では、ユウォノ氏の問題はこれに留まらなかった。

●オープン・ディスカッション

ユウォノ氏はICCの問題点として、ICC
  • (1)発展途上国を狙い撃ちしつつ先進国が裁かれる可能性が万に一つもない
  • (2)アメリカやイスラエルなどの蛮行をそのままにしているのは“意図的”である
  • (3)政治的に訴追する問題を選んでいる

などと主張し、これらを根拠理由に

「果たしてICCに国際正義を実践することができるのだろうか」

という疑問を投げかけたのである。

これで一気に議論に火がつき、オープン・ディスカッションでは質問がユウォノ氏に集中することになった。だが肝心のユウォノ氏はそれらの轟々たる質問攻めに満足に答えられず、結局他のパネラーたち(政府代表含む)が総出で火消しに回らなくてはならなくなった。どうやら、それがユウォノ氏の“役割”のようであった。会議に点火して混乱させ、会議の目標や焦点をぼかしてしまうのである。

だがこうした状況に慣れているのか、PGA国際委員会のRobertson会長は

「彼のような存在は必要だ。彼のような参加者がいるから、会議が“面白くなる”」
と言ってのけた。だが実際は、彼もユウォノ発言の火消しに必死になって立ち回ったパネラーの1人であったことは言うまでもない。

(後編へ続く)