国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

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アメリカ:軍事裁判所設置法に欠陥あり、米紙が異例の指摘

常にブッシュ政権寄りとされていた米ワシントンタイムズが、25日の記事で、先日上院軍事委員会で可決された「2006年改正軍事裁判所設置法」について、その欠陥を指摘する異例の社説を発表した。

記事によると、問題の法案には拘留者のhabeas corpus(人身保護請求権)を否定する規定が盛り込まれており、これは今年6月に連邦最高裁が出した、「各連邦裁には、拘留者による訴え、拘留の合法性およびその取扱いの適切さなどについて審理する権限を持つ」(Hamdan対Rumsfeld裁判)とする判決に反するというもの。この人身保護請求権を認めない問題の条文は法案の第6章にあり、この規定はグアンタナモ収容所の拘留者のみならず、大統領により「敵性戦闘員」として認定されたすべての国外抑留者に対して適用される。

ジュネーブ条約により即した形で構成された本法案について、当初、ブッシュ大統領は反発していたが、この人身保護請求権の停止を求める条項については反対はせず、同様の内容の法案が下院で採択されたときも、この条項については反対しなかった。

この件について、米軍の退役将校たちは上院軍事委員会の委員長および筆頭委員に宛て、以下の内容の書簡を送った。

人身保護請求権を停止することにより、未だ訴追されていない拘留者と、訴追される可能性がほとんどないに等しい拘留者たちの存在が忘れ去られてしまっている。これらの拘留者は今後も「敵性戦闘員」として拘留され続けることだろう。これらの何ら罪を問われていない拘留者について、合衆国議会は、連邦裁が彼らの人身保護請求を審理する権利を剥奪してはならない。なぜなら、この機会を失えば、彼ら拘留者は一生を拘留者として過ごすことになる可能性があるからである。

that forgotten in this removal of habeas petitions are "the vast majority of the detainees who have never been charged, and most likely never will be charged. These detainees... will continue to be held as 'enemy combatants.' It is critical to these detainees, who have not been charged with any crime, that Congress not strip the courts of (jurisdiction) to hear their... habeas cases (which) are the only avenue open for them to challenge their detention (as they face) potentially life imprisonment."

記事によると、同法案の立案者であるWarner議員、McCain議員、Graham議員の3名は、抑留者に対する基本的な法のデュープロセスの遵守を徹底するべきだと主張し、多くの市民活動家たちから支持を集めてた。しかし、そのような評価を受けている議員らが、同時に人身保護請求権の停止を訴え、まったく無罪である可能性のある者に対しても、訴えを起こす機会を奪ってしまっている。そして仮に、この法案が本会議で可決されて法制化された場合、拘留者たちは生涯を、永遠に拘留の証拠が明かされないまま、強制的な尋問を受け続けながら過ごすことになる。

記事はさらに、Warner氏やMcCain氏はなぜ、本件について沈黙しているのかと読者に訴えかける。Warner氏は、最高裁の審査を通りやすいよう、自身の名前を法案に含めることを執拗に求めたそうだが、当然同氏は、このような内容の法案を通せば、Hamdan対Rumsfeld裁判を争った弁護人たちにより最高裁に上告され、再び違憲判断を受けて差し戻されることは予見しているはずだ、と。

中間選挙が迫っている現在、この人身保護請求権の停止という法の一大事について、その話を持ち上げようとする候補者すら出てくる様子はない。候補者もその後援者も、この事実を完全に黙殺するつもりでいる。しかしここに至り、9名の元連邦判事(内1名は元CIAおよび元FBI長官のWilliam Sessions氏)が立ち上がり、連邦議会に対して訴えかけた。その書簡で、9名の判事はこのように述べているという。

人身保護請求権を保証せずに司法はどのようにして政府による拘留が拷問でないことを保証するのか。

人権保護請求権が我が合衆国で停止されたのは、過去に4回しかなく、また憲法では叛乱もしくは侵略の場合に公衆の安全を確保するために止むを得ない場合にのみ、認められてきた。

実際に人身保護請求権が(行政府によって)停止されたのはリンカーン大統領が南北戦争中に発動したときのみで、しかも1866年には連邦最高裁によってこの行為が違憲であったという判断が下されている。

したがって、この法案が法制化された暁には、長期に渡って効力を持つ法律と化してしまい、抑留者は永遠に公正な裁きを受ける権利を失うであろう。

"that without habeas petitions, how will the judiciary ensure that "Executive detentions are not grounded on torture"? The judges also remind Congress that the writ of habeas corpus has been suspended only four times in our history -- and then, the Constitution states, only in "Cases of Rebellion or Invasion (when) the public Safety may require it.")

To be sure, Abraham Lincoln suspended habeas during the horrors of the Civil War; but in 1866, the Supreme Court declared that action unconstitutional because the civilian courts were still open during the war

So, if this suspension becomes law, say these deeply concerned retired federal judges, "there will be protracted legislation for years to come" -- and many detainees may never experience justice.

そして書簡はこのように締めくくられている。

かつて、連邦最高裁長官のJohn Marshalが宣言、そして警告したように、

「我が国は法治の下に成り立っており、人治によって成り立っているのではない」

彼らは主義に基づいて大統領を守りに追いやったのだから、今度は「偉大な選択」のために立ち上がるべきだろう。

as Chief Justice John Marshall declared, and warned, "ours is a government of laws, not men." Having certainly acted on principle in putting the president on the defensive, McCain and Warner should now stand up for "the 'Great Writ.'"

記事によると、かつて合衆国建国の父の1人であるThomas Jeffersonは、憲法の草案作成の際、人身保護請求権の停止を認める条文を含めることにすら反対した。その理由は、「常習的に行われるやもしれない」ということだった。

上下両院の議会を支配し、圧倒的な影響力を持つブッシュ大統領がなぜこの法案に対して拒否権を発動しなかったのか、その背景が見えてきました。この記事が暗に指摘しているのは、大統領と中核議員の間でなんらかの取引がなされ、人身保護請求権の停止を認める条項について黙認することが密かに決定されていたということでしょう。しかし結果的にはこの法案が議会を通過したとしても、記事が指摘するように最高裁によって違憲判決を受けて廃案に追い込まれる可能性もあります。そうなると、この法案の立案責任者らは一体何の目的でこのような法案を強硬に支持し、ブッシュ政権に対する反旗を翻したのでしょうか。単なる政治ショーにしても、手が込みすぎていますよね・・。
背景記事:与党重鎮が大統領に反旗 特別軍事法廷設置で