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アメリカ:グアンタナモ収容所での待遇は拷問に相当、国連報告書が指摘


13日付けの英BBCが伝えたところによると、キューバグアンタナモ米軍収容所で行われている行為の一部は拷問あるいは国際法違反に相当すると認定する報告書を国連が作成していたことがわかりました。

ロサンジェルスタイムズが公表した内容によると、報告書では収容所の法的位置付けや拘留者を不法戦闘員とすることを疑問視し、収容所の閉鎖を勧告しているとのこと。この報告書の内容について、米国防省「伝聞に過ぎない」と一蹴しています。同紙は紙面で報告書の全文を掲載したとのことですが、Web上では残念ながら見つけられません。しかし同紙はこの報告書についてその著者の1人であるManfred Novak国連特別拷問調査官にインタビューしており、報告書の存在とその正当性について主張しています。Novak氏は国連の人権委員会によって派遣され、過去18か月間に渡ってグアンタナモに収容されていた元捕虜、拘留者、その弁護士と家族にインタビューした5人の国連の特別調査官のうちの一人でした。

Novak氏はBBCとのインタビューで次のように語っています。
我々は極めて慎重に米政府の主張をすべて検証した。そこから導かれる明確な結論というものはないが、少なくとも、一部の待遇において一般国際法、国連人権規約および拷問禁止条約に対する違反が行われた状況が存在したと結論付けた。
We very, very carefully considered all of the arguments posed by the US government. There are no conclusions that are easily drawn. But we concluded that the situation in several areas violates international law and conventions on human rights and torture.

「米政府はただちにグアンタナモ湾の収容所施設を閉鎖すべきである」(国連人権委員会の報告書より)

報告書は具体的に、どのような待遇が国連の拷問禁止条約に抵触する行為であるかを指摘しています。たとえば、ハンストを行っている拘留者に対して鼻腔にチューブを注入して強制的に食事を採らせることもそのような行為に当たり、ほかにも、拘留者に長期間の独房入りを強いることや極端な温度、音、光など利用した行為も違反行為、すなわち拷問に当たると報告書は指摘しています。

これらの指摘に対し、国防省スポークスマンのSean McCormack氏は次のように一蹴しました。
あの報告者は伝聞を元にしたものであり、事実に基づいたものではない。
The report... is merely heresay and not based on fact.

国連側はこれらの米政府側の反論を、今週末に公式発表される報告書に盛り込む方針でいますが、Novak氏は「報告書の本質はなんら変わらないだろう」と明言しています。

 前の投稿にもあったように、グアンタナモ収容所は米軍内部からも批判されており、これまではICRC(国際赤十字委員会)やヒューライツ(ヒューマンライツウォッチ)などの人権NGOからの批判にさらされてきましたが、国連の人権委員会も収容所での捕虜の扱いを批判する報告書を作っていたというのは、この報道で初めて知りました。
 米軍内部からの批判は拷問など捕虜の扱いに関することではありませんでしたが、同収容所の「外堀」ともいえる裁判制度を批判する内容でした。これに加えて、その「内堀」ともいえる捕虜の待遇までも国連の人権委員会によって問題視されれば、米国政府は強硬に収容所の正当性を主張し続けることが難しくなるでしょう。
 高まる国際的な圧力にどう米国が応えるか。人権保護と法治の徹底を強く求める内外の動きは英軍による暴行事件の発覚をはじめとし各地で具体化しつつあります。このような動きが世界中で相まって連鎖的に起これば、仮に米国がICCには加盟しなくとも、ICCが求める国際人権保護の基準を満たす法的要件を米英などの軍事大国が整えるよう法改正の動きが活発になるかもしれません。それだけでも、ICCは十分その存在意義を示したことになるでしょう。

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