国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

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超訳:望みを託す人々"Still Hopeful"

本稿は5月26日、英字誌The Diplomat公式ブログの『Tokyo Notes』に寄稿し掲載された"Still Hopeful"という筆者執筆の記事 と、その元になった原案を融合し、さらにこれまでツイッター上で行われた様々な議論を総合して行った、いわば“自己超訳”的な試みです。元になった原案はコチラをクリック
http://the-diplomat.com/tokyo-notes/files/2010/05/Futenma-400x300.jpg

あとわずか1日で、MCAS(米海兵隊普天間飛行場)の「危険な」飛行機能の移転問題について、米国との間で締結される新たな合意内容が発表される。この新たな合意は、約8500名の海兵隊員と9000名の扶養家族らをグアムに移転するという2006年の再編ロードマップ合意に基づいたグアム移転協定(2009年締結)にも、当然影響を及ぼすと思われる。

一部の報道や、23日に行われた鳩山総理の二回目の沖縄訪問の内容(※公式動画)が指し示すのは、新たな移転先の候補地が「名護市辺野古周辺」である可能性だ。しかし、オバマ政権下で強い影響力を持つCFR(外交問題評議会)のシーラ・スミス上級研究員によれば、同地に基地を建設してほしいという「圧倒的な支持」は存在しない。


「鳩山政権が米政府とMCASの閉鎖を含めた政策オプションを探るための新たな交渉段階に入っている」という事実を明らかにした、スミス女史の『(仮題)普天間問題についての現実的考察』(参考:はたともこ氏による和訳)と題されたCFR公式ブログの記事(原典)は、最後の望みを捨てずにいる人々に勇気と希望を与えた。そのフォローアップとして行われたのテレビ朝日報道ステーション』のインタビューの中で、スミス女史は前述のように答えたのだ。


鳩山政権を支持する日本の人々は、誕生間もない民主党政権が米国政府と粘り強く交渉を続け、なんらかの形で、沖縄県民だけでなく、すべての日本国民の名誉と尊厳を取り戻してくれるような、そういう交渉を展開してくれているのではないかと、一縷の希望を抱きつづけている。その望みは、日米両政府が、将来的な米海兵隊兵力の全面撤退を見据えて交渉を行っている可能性に託されている。


そうした一縷の希望に望みを託す人々に、「沖縄の政治的力学に大きな変化が生じている」と、沖縄の現状に深い理解を示す前出のスミス女史の発言は、ますます強い希望を与えているのである。


「もはや沖縄は、日米関係のすべての負担を背負うこと を要請される立場にない。
日本の首相は、米軍の運用を県外に移さざるを得ないだろう」

スミス女史はこの発言の中で、米側に対して米軍運用の県外への移行を検討するよう求めているわけではなく、あくまで日本側にその検討を求めている。このことは留意しなければならない。しかし、このような発言が、オバマ政権下で大きな影響力を持つ政策ブレインから発せられるからこそ、人々はその言葉に望みを得るのである。しかも、この望みにはまったく可能性がないわけではない。


希望の源:テニアン移設受け入れの動き

鳩山政権内の民主党と連立与党の有志の集まりが、この可能性を国民的運動に広げるべく、積極的に活動している。超党派でつくる「沖縄等米軍基地問題議員懇談会」の会長である川内博史衆議院議員(民主党)が率いる議員の一団は本年5月、在沖海兵隊兵力の移転受け入れを打診すべく、米領北マリアナ諸島連邦(CNMI)のテニアン諸島と同グアムを訪れた。議員団を迎えた両島の知事らは、快くこれを受け入れたという。そして、実現はしなかったものの、自ら鳩山総理に会見を申し入れる行動にすら出たという(地元での報道)。

米領の知事らが議員団の要請を受け入れたのには、具体的な目的があった。それは、米軍再編による米戦力受け入れに伴う諸処の開発資金について、非軍事分野での資金アクセスを米国政府に制限されているため、両島における開発資金について、日本側が供与予定の約6100億円(移転費用全体の約69%といわれる)へのアクセスへの便宜をはかってほしいという思惑があったからだ(地元での報道)。海兵隊戦力の移転受け入れは可能であるとする米領グアムのフェリックス・カマーチョ知事の強い意思は、鳩山総理に宛てられた親書原典)の内容からも窺える。この親書は即日で、グアム知事公室の公式サイトにて公表された。


またCNMIの連邦議会では4月、上下両院において、

「米国防省と日本政府に対し、日本国沖縄県宜野湾市の米海兵隊普天間
飛行場の“最適な移転先”としてテニアンを検討するよう求める決議」

が全会一致で採択されていた(各院での決議採択に関する現地報道:下院上院

こうした動きについて懐疑的な論者は、グアム・テニアンのいずれも、全ての在沖海兵隊員とその扶養家族を受け入れる能力を有していないとして、いまやすっかり有名になった、DEIS(海外環境影響準備書)とよばれる米軍の報告書(具体的には国防総省米海軍省所属のグアム統合計画部JGPOによる報告書)の“たたき台” をベースに反論を展開する。とくにテニアン諸島については、その収容能力や生活インフラの不備、そして本格的軍事利用には適していないが訓練地としては適しているとして、移設候補地から外されたと評価する、DEISの内容を引用して否定する。しかしこれに対する地元の反応は単純明瞭だ。

"NO, WE CAN"(いや、我々は受け入れることができる)

しかもこの「NO」(できる)は日米両軍事産業(ミリコン)のお墨付きでもあることが、この地元記事には示されている。2007年の段階で、サイパン商工会議所のフアン・ゲレーロ会頭が、米軍事産業大手のベクテルや日本の大手三菱重工業の調査団とともに現地を周り、同調査団は、グアムの軍拡張計画に伴う
CNMIでの受け入れは十分に可能であるという結論を出したのである。

補足資料:
米国家環境政策法(NEPA)におけるDEISの位置付け
米軍グアム統合計画に基づくマスタープラン策定過程におけるDEISの位置付けを示す防衛省資料(PDF, p.28を参照)

 
日米両政府は覚悟の選択を

このように、大平洋をまたがって、それぞれの島々に住む多くの人々が、最後の最後まで、同じ一縷の希望に望みを託している。それは、日米両政府が、沖縄に在日米軍の大半を常時駐留あるいは半永久的に駐留させるということがいかに非現実的な政策オプションであるかを悟り、大いなる合意に達するであろうという希望だ。

前出のCFRのスミス女史が同氏の「現実的考察」ブログで指摘したように、日米両同盟国政府は、それぞれ現実を見つめ直す時を迎えている。それは、問題の本質が変わっていることを認めることである。それは、とりもなおさず、米側が、日本側が提示する代替案がいかに有効であるかではなく、信頼する同盟国の国内事情を勘案しなければならないという現実に適応することを意味する一方で、日本側が、「米軍の作戦を県外に移行する」ことを真剣に検討することを意味する。

スミス女史曰く 「日米両政府は、幾 つかの極めて難しい判断を行う必要に迫られていることを認識しなければらない」のである。


そして日本政府には、谷岡郁子参議院議員(民主党)最近ワシントンで述べたこと当ブログ記事参照)をそっくり米側に返すくらいの覚悟が必要である。

「まるで“自分たちの 問題なのだから自分たちで解決しろ”と言っているにも等しいのではないか」

すなわち、今度は米側が日本の現実を見つめ、この問題に、“自分たちの問題”として真摯に取り組むことを求めるべきなのである。

時代は変わった。

日米両同盟国が、沖縄の新しい政治力学を認め、同盟関係を良好に維持する施策として、この問題をそれぞれの問題として相互に責任転嫁するのではなく、“我々の問題”という新たな認識のもとで真摯に取り組むべき時がきた。

日本国内には、まだ両国の協議の行く末に固唾を呑みつつ、望みを捨てないでいる人々が多くいる。間もなく発表される協議の結果は、沖縄の人々だけでなく、すべての日本国民の主権に関わることだからだ。

沖縄の人々も、そう感じている。

(了)