国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

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【ダルフール】(訳)ICCと国連が直面する課題をAP通信が報告

国際刑事裁判所と国連が直面するダルフールの課題

原著:JOHN HEILPRIN、AP通信記者
訳・再編:JNICC勝見
(国連 2日)国際刑事裁判所ICC)は、2週間に渡るその定例締約国会議の幕が開けた瞬間から、その信頼性を問われる局面を迎えていた。紛争に荒れるスーダンダルフールの事態で人道に対する罪で告発された二人のスーダン人を未だに訴追できないでいたからである。

多数派のアフリカ系民族の反政府勢力が、少数派のアラブ系民族による統治に反発して武装蜂起した2003年の初め以来、スーダン西部ダルフール地方での紛争では20万人以上の命が奪われ、250万人が住む場所を失った。専門家は、スーダン政府が「ジャンジャウィード」と呼ばれる地元のアラブ系民兵武装させることで報復を行い、民間人に対する広範囲な残虐行為を行ったとして批難している。

国連の安全保障理事会は、スーダン政府及び紛争に関わる全ての当事者に協力を要請する決議を2005年に採択している。この決議の中で安保理は、スーダン政府閣僚1名と、武装勢力ジャンジャウィードの指導者1名を人道に対する罪で告発することをICCに付託した。スーダン政府はこれを受け、独自で捜査を行うことを決め、ダルフールの案件を訴追するための特別法廷を設置することを約束した。

しかし先月30日、スーダン政府は問題のスーダン人2名の引渡しを拒否すると改めて表明。この問題の専門家は、史上初の常設国際刑事裁判所の締約国105カ国が集い、3日に召集される同裁判所の締約国会議において、バンキムン国連事務総長が行う予定のスピーチの内容が決定打になるだろうと期待を寄せている。

「事務総長は、曖昧な印象を持たせない力強いトーンで、裁判所への支持と逮捕への協力を呼びかけなければならない」

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのリチャード・ディッカー(Richard Dicker)国際正義プログラム局長は、30日の会見でこう述べ、次のように続けた。

「このままでは、国連指導部の強い反発を招くことなく裁判所を無視できるという誤った印象を、スーダン政府に持たせてしまう恐れがある。そうなれば、恐るべき犯罪の被害者となっている人々から、正義が行われるという希望がますます奪われてしまう」

国連の准スポークスマンであるイーヴェス・ソロコビ(Yves Sorokobi)報道官によれば、バンキムン事務総長は2日のスピーチで、国際刑事裁判所が「国際刑事裁判制度の中核としてその存在を確立している」と称え、全ての締約国に対し、未執行の逮捕状を執行するために全力で協力するよう呼びかける予定だという。

ICCの締約国会議は30日、同裁判所所長と検察官による、告発の発表後にスーダン人道問題担当相に任命されたアフマド・モハメド・ハルーン(Ahmed Muhammed Harun)被疑者と、ジャンジャウィード指導者アリ・クシャイブ(Ali Kushayb)被疑者に対する起訴に関する厳しい報告により幕を開けた。

会議の参加者に対し、裁判所のルイス・モレノオカンポ(Luis Moreno-Ocampo)検察官は「逮捕状が発行された事実とそれを執行する義務が消えることはない」と訴え、所長のフィリップ・キルシュ判事も、二人の容疑者の逮捕・拘束のため5月に発行された逮捕状が未だ執行されていないことに憂慮を示し、裁判所の信頼性が損なわれると次のように懸念を示した。

「逮捕が実現しなければ、裁判は実現しない。裁判が実現しなければ、犠牲者は再び正義が行われる機会を否定される。これでは、裁判所の潜在的な抑止効果も薄れてしまう」

キルシュ所長はさらに、2日に予定されているバンキムン事務総長のスピーチが、ジェノサイドや戦争犯罪、人道に対する罪を裁く最後の砦であるICCと国連との特別な関係の重要性を再確認するものになることをことを願うと述べた。

「この会議で当裁判所が国連や締約国から支持されれば、当裁判所の信頼性が強化される」

本紙の取材に対し、裁判所官房長のユルグ・ラウバー(Jurg Lauber)はこのように期待を表した。

一方、スーダンのアブダルマフムード・アブダラレーム・モハメド(Abdalmahmood Abdalhaleem Mohamad)国連大使は、スーダンは締約国ではないためICCの管轄権は自国には及ばず、ICCの検察官が同国の平和と安定を乱す敵対勢力に加担するような「不可能な要求」を行っていると批難し、さらにこのように述べた。

「我が国が安保理の政争の具とされるようなことがあってはならない」

ICCは2002年の7月に発足したが、スーダン政府は同裁判所を設立するローマ規程に調印した105カ国に含まれていない。スーダン政府に、訴追されている2名をICCに引き渡す意思はあるのだろうか。

大使は次のように語る。

「国外で裁判を受けるために自国民を引き渡すことはない。我が国民を裁くのであれば、我が国の司法で十分に対応可能である」