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【日報】(上)イラクの現状報告会に参加してきました

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(上)司会進行を務めたJVC代表理事の谷山氏
(下)現在のイラク議会の政党別勢力図(提供:TUFS酒井教授)


今日は議員の代理で、NPO法人JVC(日本ボランティアセンター)が主催する講演会『イラク国内避難民の今』に参加して参りました。実は犬塚さんが近日始まるイラク特措法廃止法案審議にで質問を担当することになったので、なるべくフレッシュな情報が欲しいという密命(?)を帯びての参加でした。結果、得られたものは非常に大きかったです。

一つには、イラク情勢の恒常化によりマスコミ報道が減少し、イラクの現状がますますわかりにくくなっている中で、イラクこそが「人道的危機」といえる状況にあるとういうこと。そしてもう一つは、イラクを取り巻く国内外の複雑な政治情勢を理解することが重要だという認識を持てたことです。できれば、イラク国内外の情勢については、本日講師をされた酒井先生に部門会議などで講演を行ってもらいたいと思うのですが、伊勢崎さん以上に多忙な方にそれを頼むのは酷だという事も承知なので無理には頼みませんでした。しかし今日聞いた話は、是非議員の皆さんにも聞いてもらいたい話でした。

それでは記憶がフレッシュなうちに、メモ代わりとして報告会の内容を書き留めたいと思います(実は移動中に携帯端末から執筆しています)。

国内の政治情勢を正しく把握することが肝要

最初にイラクの政治情勢について詳しく解説してくれたのが、これまでの私の記事の常連である、伊勢崎賢治教授と同じ東京外国語大学大学院(TUFS)で教鞭をとられる酒井啓子先生でした。


TUFS酒井啓子先生のプロフィール
東京外国語大学大学院(TUFS)教授。英国ダーラム大学で修士号を取得しアジア経済研究所に勤務。在イラク日本大使館調査員、アジア経済研究所参事等を経て、2005年より東京外国語大学大学院にて地域文化研究科・中東イスラーム研究教育を担当。著書に『イラクアメリカ』『イラクはどこへ行くのか』他多数。


酒井講師の話はまず、イラクに関する「よくある誤解」を紐解くことからはじまりました。その代表的なものが、「現在のイラクの混沌とした状況は、宗派同士の争いによって生じている」というもの。これが誤った認識だということでした。それはなぜかというと、イラクという国がもともと、二つの宗派と一つの民族から成り立っていた国で、この二つの宗派(スンニ派シーア派)は常に共存してきたという歴史的背景があるからだそうです。そしていま現在のイラクの混沌は、'宗派同士ではなく、宗派も巻き込んだ政治的な思惑によってもたらされている、というのが酒井先生の考えでした。それは、これまで覇権を争ったことのない宗派間に民主的政府による権威づけがなされ、その頂点に立ったものが覇権を握ることになったからです。結果、宗派入り乱れて覇権をめぐって争うようになってしまったと。つまり、はじめに宗派の仲違いありきなのではなく、宗派同士共存していた中に「政治的権欲」が入ってしまった。サダムなき後のイラクでは、これが一気に噴出する土壌が出来上がったしまったのでしょう。

この「予想外の対立」に一番驚いたのが、実は一般市民でした。いまだかつてない深刻な武力対立に発展した宗派入り乱れた様相に、イラク国民は逃げ出すしか術がなくなったのです。結果、海外に200万人以上、国内でも200万人が難民となっているのが現状だそうです。そしてその問題をさらに深刻にするのは、先進国も含めたイラク問題のステイクホルダーのな難民受け入れ状態です。周辺国だけでも、ヨルダンが75万人。シリアが150万人をやっと受け入れましたが、それ以上はキャパオーバーでストップが入ったそうです。しかしでは先進国はどうかというと、ほとんどゼロです。つまり、難民は本当に行き場がない状態で酷い生活を強いられています。しかしそれでも、母国に戻ろうとしないのです。それは、「予想外の対立」によって生じている無政府状態に要因があります。

タリバンのような「共通の敵」があるアフガンとは状況が違うのですが、ここから先はイラクもアフガン同様の問題を抱えています。つまり、弱体政府による統治が生み出す歪んだ治安構造です。ここは、群雄割拠しているアフガンの軍閥と同じ状況が生まれています。つまり、政党の派閥同士で権力争いを行っており、各政党の持つ民兵組織(アフガンでは軍閥)が各政党の利益を守る暴力組織として機能しているわけです。統一された国家治安組織の不在─ここは、アフガンと同じ問題を抱えています。ただ違うのは、各党各派が政治的権威をめぐって競っていることです。これにより、さまざまな組み合わせの会派ができては消え、これを繰り返しています。結果、彼らは政府内での権威には固執しません。もっと違う意味での権威確立を狙っているのです。それは精神的権威ともいえるようなもの。その確立のためには、平気で政権与党からも離れます。

なにかとマスコミでも話題になった反米のサドル派がまさにそうでした。このサドル派の離脱により、与党は過半数割れしてまたも趨勢が変わります。また40人いた政府閣僚のうち17人が辞任するという異常事態。四分の一のポストが空いたまま政府が運営されていることになります。当然、政府の「権威」が機能するわけもありません。警察が警察同士で競り合い、治安が守られなくなり、市民は政府を信じられなくなり、逃避するしかなくなる。それが、最近マスコミで報じられなくなったイラクの国政の現状なのです。