国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

人間の安全保障の発展に貢献する日本と世界の道筋と行く末を見つめます。

【報道】スクラップ:16日付の朝日新聞の社説

【社説】 国際刑事裁判 日本も加盟を急ぎたい

 住民虐殺や人道に対する罪を裁く国際刑事裁判所(ICC)ができて5年。ようやく日本も加盟に動き出した。加盟承認を求める法案がこの国会に提出される。

 すでに欧州の大多数を含め104カ国が加盟し、裁判所は仕事を始めている。少年兵を徴用したコンゴ(旧ザイール)の民兵指導者が起訴され、住民を殺害したウガンダのゲリラ指揮官の捜査も進んでいる。

 日本は、98年の設立条約づくりの段階から積極的に動いてきた。なのにこれほど加盟が遅れているのは、歴代政権のやる気のなさの表れと言うほかない。

 政府は国内法の整備などに時間がかかったと説明する。だが、ICCに反対する米国への配慮から決断を先送りしてきた面は否めない。

 イラクアフガニスタンに軍を派遣する米国は、反米諸国がICCに米国人を訴追する恐れがあると見て反対してきた。ICCに加わろうという国に対しては、米兵を訴えないよう約束する協定を求め、拒む途上国には援助を削るという制裁さえ振りかざした。

 実際、イラク戦争をめぐってブッシュ大統領らを訴追すべきだという声が寄せられたりもした。だが、ICCが扱うのは、当事国に捜査能力がなかったり、国連安保理が決議したりする場合などに限られる。米国には司法制度が整っているから、当然のことながら、ICCはそうした訴えを退けた。

 こうした実績から、米国はICCへの態度を軟化させつつある。日本の加盟への障害は少なくなったと、政府が判断したゆえんだろう。

 日本が加わることの意義は大きい。実現すれば、年約30億円を負担し、最大の拠出国となる。オランダのハーグにある法廷の維持・運営や捜査体制などの経済的な基盤は格段に強まる。

 日本にとっても、人道に対する罪などを許さないという強い意思を国際社会に示すことができる。

 近年の紛争では、子供や女性らの一般住民が被害を受けることが多い。旧ユーゴやルワンダの戦犯法廷では、兵士らによる暴行などが明らかになった。カンボジア刑事裁判所では、ポル・ポト政権による大量虐殺の責任が問われる。

 こうした個別の刑事裁判所と違って、ICCは対象地域を限らない常設法廷である。これを拡充することが、人道を守るための国際的な取り組みを強化することにつながる。

 日本のできることは多い。09年の裁判官の改選では、ぜひ日本人の裁判官を誕生させ、人的にも貢献すべきだ。

 アジアでは中国やインド、東南アジア諸国の多くがICCに未加盟だ。内政干渉への懸念があるからだが、こうした国々を説得し、アジアに国際人道法の考え方を広めるのも日本の役割だろう。

 これ以上、加盟を逡巡(しゅんじゅん)することは許されない。
【社説】2007年02月16日(金曜日)付より