国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

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【速報】国連の「強制失踪条約」が成立、20カ国の批准で発効へ

国連総会が「強制失踪条約」を採択、20カ国の批准で発効の運びへ

時事通信によると、国連総会では20日、国家による拉致を禁じる強制失踪条約全会一致(※1)で採択され、成立した模様です。同条約は、国家による個人の拉致・拘束を「人道に対する罪」と明確に規定し禁じた初の条約となり、ANN(テレビ朝日系)によるとこの犯罪を犯した者を国際刑事裁判所(ICC)などで裁くことが明記されたとのことです(条文を入手したら関連規定を翻訳提示します※2)。

同条約はこれから署名の受け付けを開始し、20カ国の批准により発効します。

時事によると、「強制失踪条約」は拉致問題を監視する委員会の設置を規定し、「個人からの調査要請も受理する」と定めたとのことです。但し、罪刑法定主義の原則により、条約の効力は批准前の拉致行為には及びません。よって依然として、北朝鮮拉致問題は適用外となります。

先月14日付けで、読売新聞が報じた内容によると、この条約は強制失踪を以下のように定義され、この行為が組織的に行われた場合は、国際法で定義される「人道に対する罪」にあたると明記されたとのことです。

曰く、「強制失踪」とは:
国家機関や国の許可を得た個人・集団が、逮捕・拘束・拉致などで個人の自由をはく奪する行為

この条約の採択により、国際人道法のコアクライムに、新たに「強制失踪」の罪が追加され、これを人道に対する罪と定義する事により、国際刑事裁判所(ICC)の管轄下にある犯罪であると規定することを国際社会が認めたことになりました。

国連総会で全会一致の採択がなされたということは、国連のすべての加盟国が、ICCの実効性ならびに国際刑事法システムのなかでICCが果たす役割を認めたことになります。これは画期的なことであり、またICCの明るい展望を示す歴史的なターニングポイントとなるかもしれません。事後法とはいえ、もはやどの国家も、拉致を国家犯罪ではないと主張することができなくなったのです。これは六カ国協議において拉致問題をコアテーマとして維持したい日本にとっても強力な援護射撃となるでしょう。なぜなら、全会一致という事実は、北朝鮮もその場で反対しなかったことを意味するからです。

参考
国内各社報道
(※1)「全会一致」について
早速、国連総会プレスリリースを読み進んだところ、国内の「全会一致で採択」の報道は正確ではないということが判明しました。リリースによると、国連総会は国連総会第3委員会(人権)が約100カ国の共同提案により全会一致で採択した条約案を、「採決なし(without vote)のコンセンサス(合意)方式」で承認したとのことです。すなわち公式に採決をとったわけではなく、したがって棄権者も反対者も原則存在しないことになります。

「全会一致」というのはすなわち、「委員会の案を採決をとらないで承認する」ことに異議を唱える国がいなかったということなので、「決議」という法制化プロセスを踏まないで誕生するこの条約がもつ実効性に多少疑問が沸いてきました。条約として正式に発効するまで、その動きに注目していきたいと思います。

ちなみに、ICCの締約国会議の現場で、決議案が文書化される過程を実際に垣間見てわかりましたが、国連といえどもひとつの条約を完全に文書化するのには時間がかかると思われます。まして欧米は今週末からクリスマス休暇に入りますから、国連事務局の職員もお休みに入ります。したがって、条約の各言語の正文が揃うのは年明けになるだろうというのが私の推測です。

(※2)「ICC」の記述の有無について
2006年6月段階の条約案(英文:「English」をクリック)を入手しましたが、この時点ではICCに関する記述はありません。現時点では、12月20日に採択された条約案の草案が入手できないため、JNICCとしては条約案に「ICC」の記述があることを肯定できません。また各国のメディアの報道においてもICCに関する記述を確認できていません。唯一記載があるのは「人道に対する罪」のことで、これがローマ規程が定める定義に基づいたものであるとの記述はありません。したがって、現時点で不本意ながら、「ICCで処罰しうる」という記述があることを認めることはできません。(了)