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【日報】伊勢崎賢治氏の勉強会参加報告

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日本の平和構築外交の滑稽さを熱く語ってくださった伊勢崎さん


先月から参加している民間の『平和省プロジェクト』の勉強会の一環で、今日は自称「紛争屋」の紛争処理のエキスパート、東京外国語大学で平和構築学講座を教える伊勢崎賢治氏の講演会に参加してきました。東チモールでは国連PKOを、アフガニスタンではDDR(武装解除・動員解除・社会再統合)の指揮を行った伊勢崎氏は、紛争処理の現場を知り、国連の平和活動の現場を知り、そして、現場が抱える問題、本部の問題、本国の問題を肌身に感じてきた人です。

実は平和構築活動の推進で旧知の間柄である伊勢崎さんは、かつて「明文改憲派だったそうです。つまり、憲法九条を改正はするが、憲法の縛りを強める意味で、自衛隊の合憲性を明文化し、憲法上で自衛隊に対する制約を明確にするという考え方です。しかし、国連や国連の枠外で日本の平和活動の実態を目の当たりにした伊勢崎さんは、これが日本ではまだ時期尚早であることに危機感を感じ、護憲派に転じたそうです。実は私も、同じような軌跡で護憲派に転じたクチでした。ただ私は、伊勢崎さんのように「外」から紛争地の現場を見たり、本国政府官庁の実態を知って立場を変えたのではありませんでした。私は、国内にずっといて、911から日本の「中」の動きをつぶさに観察してきた結果、伊勢崎さんと同様の結論に至っていたのでした。勿論、その最大のきっかけを与えてくれたのは、犬塚さんでした。そうして私は、九条改憲阻止の為の政策推進に関わる決意を固めたのですから。

講演では、初めて詳しく、伊勢崎さん自らの口から、アフガニスタンで日本が何を行ったかについてその全貌が語られました。

911 発生後、アメリカの報復攻撃で一旦は壊滅状態に陥ったタリバンは、パキスタンと国境を接するトライバル・エリアまで撤退し、群雄割拠するアフガニスタンの国内事情が飽和状態に至る機を伺っていました。中央アジア平定のためタリバン復権を阻みたいアメリカは、群雄割拠している国内の軍閥(対タリバン北部同盟)の中から第二、第三のタリバンが出ないよう、軍閥武装解除アフガニスタン治安構造改革SSR:Security Sector Reform)の中核に据えました。この構想は、以下の5つのコンポーネントと担当国から成り立ちました。

アフガニスタン治安構造改革の構成要素

●国軍創設(アメリカ)
●警察再建(ドイツ)
●司法整備(イタリア)
●麻薬対策(イギリス)
武装解除(??)

このうち、もっとも困難な作業である武装解除を、日本が担当したのです。にわかには信じられない話ですね。しかし、完全非武装で信頼醸成のための地道な努力を続ける日本のチーム(勿論、伊勢崎さん主導です)は、徐々に地元に受けいれられ、数多くの軍閥武装解除に成功します。伊勢崎さんが言うには、日本が米国と違い中立的な立場にあり、また中央アジアに権益を求めていないと思われているという、「美しい誤解」が有効に作用したとのことでした(実際は、アフガンには日本の企業連合体も深く関与しており、タリバン政権崩壊後に、タリバンが頑なに拒否したパイプライン計画が親米政権の暫定政府によって問題なく承認され、順調に推移し、完了したことは現地国民の知らぬところのようです)。

とにかく、そうした「美しい誤解」のおかげで、日本はどの国も腰が引けて「非武装では」できなかったことを、2005年の7月までの間にODA予算の100億円を費やして完了させました。国内ではとかく、イラク自衛隊派遣にばかり目がいきがちですが、日本が国連の枠内の活動でこれだけの予算をかけて一大事業をやってのけたことを、日本の国民のどれだけが知っているのでしょうか。しかも、この事業はあくまでアメリカの中央アジア平定の為の計画の一部で、日本がそれにこれほどまでに深く関わっていたということを、国会、メディアをはじめとする日本の世論はどれだけ把握してたのでしょうか。

伊勢崎さんの話では、アフガンでのSSRのうち、満足に成功したと言えるのは、日本の武装解除のみでした。アメリカ担当の国軍創設にはまだ至っていませんし、ドイツの警察再建も進んでいません。警察の再建が出来ていないのに、司法整備が行えるわけもなく、イタリアも苦闘しています。では麻薬対策はどうか。タリバン政権時代はほぼ90%の輸出が抑えられていたそうですが、タリバンの枷が外れた途端、この90%が復活しています。その主な輸出先はヨーロッパで、EUでは社会問題と化しているこの事態に、担当国のイギリスは十分に対応できていません。5つの分野の連携が必要なSSRで、日本のDDR武装解除)だけが成功するとどうなるか。群雄割拠していた軍閥だけが無力化され、そこに有効な国軍も警察もいない中、タリバン復権の誘因となる「力の空白」が生まれます。つまり、日本のDDRだけが成功している状態では、 SSRは成功しているとはいえず、むしろ失敗したと結論付けられます。

この事態を打開する方法は、伊勢崎さんが仰るには二つしかないといいます。それは、軍閥復権すなわち北部同盟の復活か、あるいは政治的和解です。しかし北部同盟を復活させては地域の平定は望めません。したがって政治的和解を探るのが唯一の有効な道となっており、カルザイ大統領は現在この路線でタリバンとの和解を図っているそうです。しかしそうした矢先、現在ニュースを賑わせているように、タリバンは人質戦略による多国籍軍の撤退を求めており、「力の空白」を実力で奪取せんとしています。

2001年9月にアメリ同時多発テロが起き、その直後にアフガン攻撃が、二月後にはインド洋において、海上自衛隊によるテロ特措法に基づいた実質的な「軍事支援」が行われ、その軍事支援が行われている中で、「美しい誤解」に基づき、日本は信頼醸成に成功し、アフガン本国で武装解除を成し遂げた。

しかし、その後に何が残ったか。

なぜ日本は、アフガニスタンでこれだけの功績を治めながら、イラク戦争も支援することを決めたのか。

なぜ国連決議もあり大義のあるアフガンでより徹底した武装解除ひいてはSSRを実践するために国力を注がなかったのか。

なぜ国連決議もなく、大義もなく、間違った理由で始められたことがわかっている戦争にいまも加担し続けているのか。

そして、なぜさらに加担する心積もりですらいたのか(安倍首相はNATOの国際会議にオブザーバーとして参加し、日本もイラクで PRT地方復興支援チームに参加する予定だと仄めかした)。

日本の外交がいかにちぐはぐで、国際常識にも適わない、まったくデタラメの平和協力が行われているのかを示唆する言葉が、のちにアメリカの多国籍軍司令官のカール・アイケンベリーー中将により語られたそうです。曰く、「まったくわからない」と。同盟国の軍隊の幹部にこう思われてしまう日本の平和構築外交。これが、九条の改正という大勢の転換だけで解決できる問題ではないことは明白です。

憲法九条は、やはり無能な政府首脳及び官僚による誤った国家の舵取りを阻止する為に有効なブレーキであると、今回の講演を聴いて私もひしひしと感じた次第です。

NEWS:主催者の平和省プロジェクトが講演のビデオ(160MB)を公開しました

※本記事のミラーサイト版では「議員秘書のささやき」と題して五行歌を綴っています。五行歌をご覧になりたい方はミラーサイトに是非お越し下さい。