国際刑事裁判所(ICC)と日本 [はてな版]

人間の安全保障の発展に貢献する日本と世界の道筋と行く末を見つめます。

(下)17日開催のソン判事・議員懇談会の公開議事録

イメージ 1

                     真剣に議論する議員たちの様子

国際刑事裁判所サン=ヒュン・ソン判事の来日を歓迎する

ICC有志による合同懇談会 ~ (質疑応答編)

(犬塚)
それでは質疑をお願いいたします。
(広中)
今、ICCで大きな裁判は何ですか。
(ソン)
現在、コンゴ民主共和国の最高司令官の一人がハーグの刑務所の中に被疑者として収監されています。

この裁判については今年の1月29日に予審手続きが完了しておりまして、おそらく年内から審理がはじまります。

いつからということはまだ明らかではありません。私の部署は控訴部ですので、控訴審に入ってからことにあたります。そこでは手続き的なことを確認するということになりますので、訴因の具体的なケースを担当するということにはなりません。私のところでは8件まで担当できます。

ウガンダの案件では、逃走中の反政府勢力の5人の司令官に対して逮捕状が出ているのですが、このうち一人は殺害されたと伝えられています。残りの4人についてはまだ捕まっておりません。これを担当するのが予審部といわれるところであります。

さらにもうひとつスーダンダルフールの件の二人。一人がスーダン政府の閣僚、もう一人がジャンジャウィードの指導者できわめて逮捕の可能性は難しいという状況になっております。

もう一件つけくわえますと、リベリアの元大統領チャールズ・テイラーのケースです。チャールス・テイラー自身はシエラレオネ特別裁判所にかけられています。シエラレオネフリータウンという首都で行われました。

しかし同国内のさまざまな手続きについて公正さを確保できないということでさまざまな考慮の結果、ハーグに移されてきました。ICCがあるハーグでチャールズ・テイラーの裁判が行われることになっています。
(小宮山)
さきほど刑事司法のネットワークをつくっておられて、それに日本も役立つだろうというお話でしたが、それに加えて警察のネットワークがあるというお話でしたが、それはICPOとは別の組織ですか。
(マッシダ)
わたしの知るところでは、まず最初に作業部会がつくられて、ICCと各国の関係を構築するということになったわけです。最初にICCはヨーロッパの判事や検察官のネットワークをつくりました。

それと同時にユーロポール、ヨーロッパの警察間の協力関係を結び、合意文書をつくりました。

昨年、インターポールとの間に協力関係を開始したばかりです。インターポールやユーロポールなどのチャネルで捜査活動、身柄確保などに乗り出していくことがあります。

そういったような形で先のダルフールの二人の事件では逮捕状を出させていただきました。

しかし、私どもはもうすこし着実な手続きがございまして、この手続きはまず最初に予審部の第一予審部に事件がかけられるのですが、そこで逮捕が決定されるとします。この段階でまず第一に関係国あるいは滞在しているであろうという国に逮捕を依頼することになります。

逮捕ができないとか、する気がないとかさまざまな理由で逮捕できない場合は、別チャネルを使うことになります。この時に国際刑事司法共助の既存のネットワークを使うということになります。
(小野)
せっかくソン判事にお越しいただいておりますので、お聞きしたいのが5年活動されてどういうところに困難を感じておられるのか、その問題は国際的な政治の中でどう解決されることを展望しておられるのか、現状と今後のビジョンについてお聞かせ願いたい。
(ソン)
ICCが発効したころ、多くの障害がありました。典型的なのは、アメリカでクリントン政権ICCに署名したのに、ブッシュ政権はそれを撤回しました。そうした強い反対が示されたということはみなさまご承知のことと思います。しかしながら個人的な見解でありますが、そうしたことは段々やわらいできました。すくなくともトーンダウンしてきました。ですので私は国際刑事裁判所というものに大きな希望をもっており、おそらく成功するであろうと考えております。

ICCが最も重要な国際刑事機関であることを確立され、国際的な正義、司法、平和に貢献するであろうと思っております。

もうひとつは私が国際刑事裁判所の判事として判断をした段階のことですが、やはり最初の決定をしたときはれなくなりました。私がした決定は国際刑事裁判所の最終判断になるわけですからそれが間違っていないのかどうか、本当に正しいのか、大丈夫なのかということを考え、夜も眠れないことがございました。これが質問の答えになっているかどうかわかりませんが、こうしたことを感じたというのも事実であります。

(プレイラ)
先ほど判事の方に質問のあった政治的な難しさということで私の方から付け加えさせていただくと現在、国際刑事裁判所は4ケ国の事態について捜査を行っているわけでございますが、この4ケ国とも紛争が現在も進行中でございます。そういう状況では、関係者の安全を確保するのが難しいわけでありますが、そのためにも地に足のついたしっかりとした判断をしていかなければなりません。実際にそうしないと安全は確保できませんし、実際に安全が脅かされるのは、検察官、被疑者その他の関係者、とりわけ被害者、犠牲者自身です。こうした人が被害を受ける可能性があるわけですので、そうしたことを忘れるわけにはいきません。

(ソン)
多くの弁護士や法曹関係者に聞かれるのは、言語や法手続きが異なるさまざまな国から人材がやってくることは障害にならないかということです。これは障害というよりはむしろ有益なことだと私は思います。これは大陸法かコモンローかというようにいろんな手続きが異なるわけですが、私のもとには5人の判事がおります。たとえば私は法学の教授ですが、他には40年以上判事としてやってきた方もいますし、外交官という方もいらっしゃいます。NGO出身という方もいらっしゃるわけです。そういうさまざまな違うバックグラウンドがあるということは、いろんなことを協議したり、決定したりするプロセスを踏む上で、むしろ有益であると私は思います。

ひとつ技術的な問題、手続き的な問題としては翻訳の問題があげられます。これは非常に大きな問題です。これは費用がかかるということ以上に、コミュニケーションの手段としての翻訳が非常に重要な手段になるわけですけれども、いろいろ事態が変わっていく場合においても、すべての問題について翻訳していかなければならないということがございます。しかし実際、原告に短い時間で文章にまとめろと言っても非常に難しいし、しかもそれを全部翻訳しなければいけないわけです。

現状では英語、フランス語の二つが作業言語として決められているわけでございまして、最終的には国連の公用語である6言語に翻訳されるということになっております。

実際には世界各国からさまざまな方がいらっしゃって、学者、研究者の方もいらっしゃってこれはいったいどういうことになるのか、なんといってもICCはみなさんの期待が集まっているわけです。きちんとした正確な翻訳をするのは大変難しいということをここでは言わざるを得ません。

(江田)
刑事裁判というのは学会とかと違って、生の証拠を扱うわけだから、それこそ田舎の方の本当にわずかな人たちの方言まで全部、その言語で証拠を集めてきてそれを法廷に出していく作業というのは大変だと思いますね。

(マッシダ)
言語の問題は大変大きくて、被疑者、被告人、被害者関係者、母国語でものごとをすすめなくてはいけない。それが裁判手続きの義務になっている。

たとえばコンゴ反政府軍の案件では、この司令官達が使っているのは地域の言語でありますアチョリ語であります。ですからすべての証言その他につきましてもアチョリ語でできるというところまでもっていかなくてはいけません。証人に証言も母国語で行うということです。

ですから将来、日本人が裁判所に出てくるということになりますと、法廷では日本語でしゃべるということになりますので、当然日本語を扱わなくてはいけません。ちなみにコンゴ民主共和国では52の言語がございます。

それからウガンダでは32から33の言語があるといわれておりますので、この問題がいかに大変かということはご承知いただけるかと思います。
(伊藤)
裁判官の欠員があるというお話ですが、日本がこれからICCに加入して、事務局なり裁判官で人材面についてはどのような活躍ができるとお考えですか。

(ソン)
現在3つ空席がありまして、18人裁判官の枠があるわけですが、主に健康上の理由で三人辞任されております。

今年の12月に行われる締約国会議で残りの任期に向けて日本が裁判官を選出するよう候補を立てることは可能です。あるいは、現在の任期の満了を待って、2009年1月か2月に次の9年の任期に向けて日本が候補者を立てるということも可能です。

ただし規定により、3年以上在籍していると再選はされません。
どちらにするかは日本の判断次第ということになります。
(伊藤)
江田先生の語学力は存じ上げませんが、法曹界出身でいらっしゃいますからご活躍を期待します。ジョークですけど。(一同、笑)

(プレイラ)
判事以外の方法もあります。法学教授10年以上の経験を積まれている方でしたら可能ですし、法的顧問という役割については5年以上の経験があれば可能です。こうした職種についての告知もさせていただいております。

(ケイタ)
法律補助部に所属しておりまして、弁護士、弁護人をつけていくというのが仕事になります。

ここに日本の弁護士の方が入られれば、弁護人として実際に活動することができます。そのときの資格としてはさきほどの指摘されましたように作業言語であるフランス語か英語ができるということが必須なのですが、それを満たせば日本の法律家の方がICCの法廷に立つことは可能です。該当する方は躊躇せずに歩み出ることを期待いたします。私も日本に来るのは夢でしたが、こうして叶いましたので、みなさまも夢を現実にしてください。
(江田)
現在、ロースクールも含めて、どんどん若い法律家が育っておりますので、4、5年先にはいい人材が出せると考えております。
(犬塚)
名残惜しいのですが、そろそろ時間ですので、最後に森山会長から一言お願いします。
(森山)
新しく我々が批准することを決定したICCの様子が具体的にわかってまいりまして、日本も大いに貢献しなければならないということが分かったわけです。候補者のお話がありましたが、判事をはじめとしてさまざまな仕事があるそうで、お役に立つことがあれば是非ご協力申し上げたいと思っております。ありがとうございました。
文責:世界連邦運動協会 阿久根
校正:参議院議員犬塚直史事務所 勝見